【電子書籍化】最初で最後の一夜だったのに、狼公爵様の一途な愛に蕩かされました
 都合がよすぎる。
 グレンに「きみこそが俺の番だ」と言われたとき、そう思った。
 獣人の番は、必ずしもそばにいるものではない。
 番がいるのは、世界のどこか。
 一度も番に出会えないまま人生を終える者も多く、見つけたとしても、もともと繋がりの深い相手である可能性は低い。

 すぐ近くの現実として、グレンの両親のケースがある。
 グレンの両親に、面識はなかった。
 グレンの父が他国へ出張した際に社交場で初めて出会い、番であることが判明したのだ。
 もしも、グレンの父が他国へ向かわなかったら。
 その会に、どちらか一方でも参加していなかったら。
 筆頭公爵家生まれのグレンの父と、他国の下位貴族の彼女が出会うことはなかっただろう。
 番が見つかり、相手も貴族で、婚姻も滞りなく結べたという時点で、相当に運のいいほうなのだ。
 グレンの両親のケースでも、人々の憧れの対象である。


 なのに、だ。
 ルイスから迫り、身体の関係を持った翌朝、グレンはルイスを番と呼んだ。
 さらには、自分たちは幼馴染で、昔から互いに焦がれていて。
 初恋の相手を抱いた翌朝、番だとわかるだなんて、話ができすぎているのだ。
 グレンの弟妹も、「獣人にとっては夢のような話」だと言っていた。
 事実、両片思いの相手が番だった、番だとわかったことで二人は結ばれた、というロマンス小説も多い。
 あの状況で、この関係で。ルイスがグレンの番だと判明するのは、夢のような話。物語の世界のお話。
 もはや、その域のものなのだ。
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