【電子書籍化】最初で最後の一夜だったのに、狼公爵様の一途な愛に蕩かされました
 そんなカリーナの姿に、ルイスは胸を痛めていた。
 ルイスは、カリーナに聞きたいことがあってここまで来た。
 どうしてこんなことをしたのか。グレンのことが好きだったのか。
 その答えを、カリーナの口からききたかったのだ。
 だが、もう。今にも泣きだしそうなカリーナを前にして、そんな質問を投げかける気はなくなっていた。

 カリーナは、嘘をついてまで手に入れようとするほど、グレンのことが好きで。
 けれどグレンは、カリーナの気持ちにはこれっぽっちも気が付いていない。
 ここまでしても気が付いてもらえないこと、自分を見てもらえないことに、カリーナはひどく傷ついている。
 二人が話す様子を見て、ルイスはそう理解した。

「グレン様」

 ルイスは、グレンとカリーナのあいだにそっと割り込む。
 彼の胸に手をおくと、ゆるゆると首を横に振った。
 もうやめてあげて、そう言うかのように。

「理由がなんであれ、彼女はこれから罰を受けることになります。だから、もう……。ここでの質問は、やめておきましょう」
「あ、ああ……。けど、ルイス。きみも、聞きたいことがあったんじゃ」
「私のほうはもういいんです」
「そう、なのか……?」

 ルイスはグレンに向かってほほ笑む。
 本当に用は済んだのだろうか、と思ったのだろう。グレンはルイスを気遣う様子を見せていたが、ルイス自身の言葉を優先して、引き下がってくれた。
 番二人のやりとりを見て、カリーナは肩を震わせ……くつくつと、笑い始める。

「ははっ……! あははっ……」
「カリーナ様?」
「見せつけてくれるじゃない。番様の余裕ってやつ? 私は大丈夫ですーもうやめてあげてくださいーって?」
「そんな、つもりじゃ」
「違わないでしょ! グレンに全く相手されない私に、同情したのよね? そんなのいらない。いいわ、言ってやるわよ!」

 カリーナは、その小さな体で、すう、と息を吸った。

「私は、グレンのことが好きだった! 番を騙ってまで奪い取ろうとするほどに! 私こそが番だと主張すれば、ルイスとの婚約を解消させて、自分のものにできると思ったのよ!」

 カリーナの叫びに驚いたのは、グレンだった。
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