【電子書籍化】最初で最後の一夜だったのに、狼公爵様の一途な愛に蕩かされました
 開け放った窓から風が入り込み、ルイスの金の髪を撫でる。
 まだ早い時間帯だが、すでに太陽が出ており、少しの風も心地いい。
 外の空気を味わいつつも、ルイスの表情はどこか陰っていた。

「……」
 
 自分たちが番であったことを認められ、疑いの目を向けた者たちからの謝罪も受けて。
 元の生活に戻れるはずなのに、彼女の気分は晴れない。
 
「ルイス。朝方はまだ冷えるよ」

 そんな彼女の肩にそっとショールをかけたのは、寝起きのグレンだ。
 そのまま彼はルイスの隣に立ち、ともに風を感じ始める。
 くああ、と彼があくびをしたものだから、ルイスはふふ、と笑みをこぼした。
 社交の場などでは見せることのない、リラックスしたグレンの姿が、なんだか可愛く思える。
 グレンの主張が認められた日、二人はグレンの私室で夜を共にした。
 すれ違いも解消し、自分たちの関係が公にも認められ。
 感情の高ぶった二人は、初めて身体を重ねた日のように、情熱的なときを過ごしたのだった。

「……あまり眠れなかったのか?」
「眠れはしたのですが、なんだか、早くに目が覚めちゃって」

 グレンにたっぷり愛された翌朝は、疲れから起床が遅くなることが多い。
 なのに今日はグレンよりも早く起きていたから、彼を心配させてしまったようだ。
 ちなみに、彼に包まれて幸せいっぱいになったところで、ルイスの記憶は途絶えている。
 ので、眠れなかった、ということはない。
 むしろ、心地よい疲労感と幸福感から、一人のときよりもぐっすり眠れているだろう。
 だというのにどうして、早くに目が覚めてしまったのかといえば――。
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