【電子書籍化】最初で最後の一夜だったのに、狼公爵様の一途な愛に蕩かされました
 それから、一か月ほどが経ち。
 番を騙ったカリーナは、身分をはく奪され、国外へ追放されることとなった。
 オールステット家という、この国でも屈指の力を持つ家の者が、番というシステムを悪用しようとしたのだ。
 四大公爵家と獣人。両方の名誉や信頼を著しく傷つけたことを考えれば、この処分も妥当か、やや甘いぐらいかもしれない。

 豪華なドレスや装飾品は全て取り上げられ、ほんの少しのお金だけを持たされて。
 簡素なワンピースに身を包んだカリーナは、馬車で他国へと運ばれていた。
 そう簡単に戻ってこれないよう、ご丁寧に複数の国境を越えた先まで送るそうだ。

 彼女が生まれ育ったセリティエ王国は、獣人と人間が共存する国だった。
 しかし、他国はそうもいかない。
 もし、別の国でなんとかやっていけたとしても、争いや迫害に怯える日々が続くだろう。
 公爵家の娘として、周囲の人々にちやほやされて育ったカリーナにとって、他国での暮らしは恐ろしいものだった。

 最初こそ、俯き、光のない瞳でぼうっとしていた彼女であったが、あるときから、そわそわとあたりを見回すようになっていく。
 今まで感じたことのない高揚感が、彼女を包む。
 進むほどに、その感覚は強くなってゆき。
 ある町にたどり着いたとき、ついに我慢できなくなって。

「馬車をとめて!」
「え? ですが、予定地はまだ先で……」
「いいから!」

 御者に向かってそう叫び、無理やり馬車をとめた。
 素早く馬車をおりた彼女は、弾かれるようにして一直線に駆けだす。
< 76 / 87 >

この作品をシェア

pagetop