竜王の一途な溺愛~私が前世で孵した卵は竜王の卵でした!?~

 食事も最低限で済ませていた。城のものに心配されはしたが、クリスは強大な魔力を持つゆえに、食事を摂らなくとも生きていける。
 もとより、エリスティナが死んでから、クリスは空腹を感じたことがなかった。

 食べ物を食べても味を感じないから、空腹感がないことはクリスにとって都合がよかった。

「クリス、お前、いくら死なないったって、こんな生活してちゃ体を壊すぞ、ちゃんと休んで、食わないと……」

 そろそろ90年の付き合いになる、人間を番に持つ、比較的気心の知れた部下が、クリスを説得するためか、あえて砕けた口調で言う。
 クリスはそれに無言を返し、街へ降りた。

 その日は、良く晴れた春の日だった。
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