竜王の一途な溺愛~私が前世で孵した卵は竜王の卵でした!?~
 この香りは、そのアパートの一室から漂ってきているらしかった。

 こんなこと、エリスティナが死んでから一度もなかったのに。
 シチューなんて何度も饗された。エリスティナの話したミルクを飲んだことだってある。
 けれど、そのどれも、味どころか匂いすらありはしなかった。

 ついに、エリスティナ恋しさに幻の香りまで感じるようになったのだろうか。
 クリスはアパートの下で、香りのもとである二階の一室へと視線をやった。

 シチューは、エリスティナの得意料理だった。
 豆を煮だした汁で作られた、エリスティナ曰く代替品。
 けれど、その味はクリスにとっては代替品ではなかった。エリスティナのシチューは本当においしかったし、クリスの好物だったからだ。

 代替品――。
 そこまで考えて、クリスは眉を寄せた。
 エリスティナはクリスの番だ。
 その生まれ変わりもまた、クリスの番である。
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