竜王の一途な溺愛~私が前世で孵した卵は竜王の卵でした!?~
「ふふ、あはは!もう、大丈夫よ。シチューは逃げたりしないから」
「あ、ええと、あなたは……」

 ごまかすように、女性の名前を聞く。彼女はまた、楽しげに笑って言った。

「私はエリナ。あなたは竜種?身なりがいいから、竜種の貴族かしら。だめよ?竜種だからって、竜種の生命力に胡坐をかいて食わず嫌いしてちゃ」
「僕は……ええと、その」
「大丈夫よ。名前は聞かないわ。こんなところで行き倒れてるなんてたいてい訳アリですものね」

 名を聞かれて口ごもったクリスの言葉を掬うように、エリナと名乗った女性が続ける。
 クリスと名乗れなかったのは、どうしてか、自分でもわからなかった。

 もしかすると、番だから好意を持ってしまった自分を、自分で恥じたからかもしれない。
 こうやって、素性の知れない相手にも手を差し伸べてしまうエリナ。生まれなおしてもその在り方は同じで、そう思ったから、クリスは自分の太ももをつねって無理矢理に笑顔を浮かべた。
< 175 / 315 >

この作品をシェア

pagetop