竜王の一途な溺愛~私が前世で孵した卵は竜王の卵でした!?~
 首の後ろに、逆鱗、という鱗がある。特にこれはクリスの場合、竜王の証なので、触れられれば怒り狂うようなものなのだが――。

 エリナには、そういうものを感じなかった。
 むしろ、やわらかな手が髪をなでるのが心地よくて、もっとしてほしいと思ってしまう。

 けれどエリナは申し訳なさそうな顔をして、上目でクリスを見上げて来た。

「エリナさん……?」
「……?怒ってない、の?」
「何を?」
「撫でられることなんて、もうずいぶんありませんでした。嬉しいです」
「そ、そう……?」

 事実だった。クリスを最後に撫でたのは、エリスティナだったから。
 胸がどきどきとうるさい。
 エリナを愛してしまうのは時間の問題だった。
 それなのに、クリスの理性はまったく仕事をせず、この場にいることを選んでしまう。

 だって、エリナが幸せそうに笑うから。
 その笑顔を、もっと長く、見ていたかった。
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