竜王の一途な溺愛~私が前世で孵した卵は竜王の卵でした!?~
 番の生まれ変わりが、こんなにも酷似しているなんて、おかしいから。

「……前世って、信じる?私、昔、竜種にひどい目にあわされたの」

 ああ――……。
 クリスは、静かに息を吐いた。
 そうして、やっぱりか、と思った。

 ――エリーは、全部覚えてるんだね。

 エリナは、前世を、過去を、苦しい記憶を、すべて、覚えている。
 だからこんなにもおびえて、こんなにもクリスを拒絶するのだろう。
 クリスが、守れなかったことも、すべて覚えているから、エリナはクリスのことを、クリスだと認識してはくれないのだろう。

 エリナは、自分を守るために、クリスを過去の雛竜だと思わず、クーと呼んで、別人だと思おうとしている。
 クリスは、エリナが逃げるつもりであることを察した。

 このアパートには家具は作り付けで、あんなに生活感があると思っていたのに、実際のところ、エリナの私物は少なかった。
 だから、エリナは逃げようと思えば逃げてしまえるのだ。明日にでも。
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