竜王の一途な溺愛~私が前世で孵した卵は竜王の卵でした!?~
「恋を、知らなくてよかった」
エリスティナは、自分で淹れた午後のお茶を飲みながら、独り言ちるように言った。
誰もいない、侍女も下働きすらいない、うらぶれた離宮。
隙間風の入るような寂しく寒いその場所で、毎日の食べ物にも事欠く有様ながら、エリスティナはなんとか生きていた。
人間貴族は領地を持たない。
そのため、竜種地主の小作人として農作業をして暮らしていたのが、今役に立っている。
離宮の裏の、小さな畑。そこに実るわずかな野菜と、ごくまれに配給される硬いパンがエリスティナの食事だった。
「恋をしらなくて、本当に良かった」
エリスティナは、自分に言い聞かせるように、もう一度繰り返した。
番を求める竜種が恋だの愛だの言うのが理解できない。
ときめくことも何もない。生活の楽しみすらなく、息をするだけの人形のような生活をしていて、思うことはそれだけだった。
万が一、四番目の姉のように恋を知っていれば、ここでの生活はそれはそれは苦痛だっただろう。