竜王の一途な溺愛~私が前世で孵した卵は竜王の卵でした!?~
「幻影を飛ばしてきたのか……」
クーが、険しい声でつぶやく。
エリナは、は、は、と荒くなった息を整えて、クーを見上げた。
「どうして、ここに……?」
「あなたが中庭に行ったと聞いて……その時、防衛魔法を抜けるなにかがあるのに気付いたんです。あなたに、なにかあったんじゃないかと……」
クーの顔が、くしゃりと泣きそうに歪む。
「……遅くなって、すみません」
「だ、大丈夫よ。クー、私、ほら、どこも怪我してないでしょう?」
エリナが裾をぱっぱと払ってくるりと回る。
クーに心配をかけたくないと思ってしまった。
そうやって笑うと、クーの形の良い眉がますます心配そうに下げられる。
「怪我をしていなくとも、です。僕はあなたへ危険が迫るのを許してしまった。使用人たちだって……」
「私が侍女を下がらせたの。クーも、誰も悪くないわ」
エリナは言って、おそるおそるクーの頭へ手をやった。
さらさらとしたはちみつ色の髪が、くしゃくしゃにかき混ぜられる。
「エリー、あのものに、何か言われていましたよね?なんと?」
ごまかされてはくれなかった。
だから正直に言おうと――エリナは、思い出そうとして、ひとつも、思い出せないことに気が付いた。