竜王の一途な溺愛~私が前世で孵した卵は竜王の卵でした!?~

 エリナは、それを知りたくなかった。

 ――クーは、やさしい。

 クーを見上げる。

 ――クーは、私を傷付けようとしない。

 きっと、エリナをここに連れてきたことにだって、理由がある。
 そう、思った。そう、思えてしまった。

 ――だって、私、クーのこと、ちょっとだけだけど、知ってる。

 そのたった少しの「エリナの中のクー」が、エリナを傷付けようとして、竜王の番として連れて来たわけであるはずがない、と主張する。
 エリナはそれに頷いた。
 そう思う、そう思いたい。だって、エリナは――……。

 エリナはクーの体から自分を引きはがしてかぶりを振った。
 クーがエリナを心配して声を上げる。
 ほら、クーがそんなだから、エリナはクーを――になってしまう。

 カヤのようになりたくない。
 誰かを傷付けても、想いを正当化する人間になりたくない。
 エリナはこの感情がこわかった。ひとを変えてしまう、この気持ちが怖くてならない。

< 229 / 315 >

この作品をシェア

pagetop