竜王の一途な溺愛~私が前世で孵した卵は竜王の卵でした!?~


 良くも悪くも。エルフリートはもう一度繰り返した。

 奥歯がかたかたと鳴る。
 食いしばりすぎてがちりと割れた歯が、歯肉が痛む。けれどその端から再生していく。
 竜種の肉体は強い。そうだ、だから、長い時を共に生きるために、竜種は己の首の後ろに存在する「逆鱗」を番に持たせるのだ。

 竜種の命がある証――竜王にとって、それは竜王の証にもなる。
 逆鱗があれば、番は長い時を生きられる。
 と同時に、死ぬ目にあっても死ねなくなる。カヤが70年間死ねないで焼かれ続けたのは逆鱗を持っていたからだ。

 おそらく、逆鱗を体内に飲み込んでいたのだろう。だから逆鱗を手放せず、狂うまで生き永らえてしまったのだ。

「エリーに逆鱗を渡せば、呪いを弱められるか?」
「逆効果だ。逆鱗は万能ではない。体を強くはするけれど、魔法に対する耐性を高めたりはできないんだ。君が前竜王の番に黒炎の呪いをかけられたのもそれが理由だよ。知っているだろう?君はほかの竜王とは違う。知識だってあるはずだ」
「ああ。知っている」

 クリスは目を伏せた。
 ただ肉体を強くするだけの竜の逆鱗。それを渡したとして、エリナは一見元気にはなるだろう。
 けれど、それは本当にみせかけだけだ。
 呪いは健康な体の中でエリナを侵食し、その精神を蝕む。眠る必要もないほど活力が湧いて、だからこそ最低限しか眠らなくなり、呪いの進行は早まるだろう。
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