竜王の一途な溺愛~私が前世で孵した卵は竜王の卵でした!?~
エリナは、クーを好きになりそうな心をひとつひとつ否定していった。
エリナにはなにもない。親の顔も知らないし、お金もない。育ちがいいわけでも、顔立ちがきれいなわけでもない。
才能なんてないし、人並みに料理の腕があるだけの、ただの町娘。
――私が、番じゃなければ、きっと、クーは私を好きだなんて思わないでしょう?
エリナが瞬きをひとつすると、いつのまにか目にうっすらと張った涙の膜が雫となって頬を滑った。
目を閉じる。荒れ狂う感情の波をが収まるまで、じっと閉じる。
ややあって、ようやく開いた瞼の先には、心配そうにエリナを見つめるクーの顔があった。
「……クー?」
「エリー、大丈夫ですか?」
クーはエリナに尋ねる。エリナはしばし、口を噤んだ。
クーがエリナの頭にそっと手をくれた。柔らかく撫でられる額に、エリナは目を細める。
まるで子供みたいだ。
風邪を引いた子供。孤児院の先生は、いつもやさしかったけれど、風邪を引いた子供には特にやさしかった。