竜王の一途な溺愛~私が前世で孵した卵は竜王の卵でした!?~
「私達、ずっと、遠回りしてきたわね」
「……そうですね」

 互いにそう言って、エリナとクリスは見つめあった。
 アーモンド形の美しい緑の目が、エリナの空色に映る。混ざり合った瞳の色は、クリスにはどう見えているのだろう。
 エリナは目を閉じた。

 感じるのは、かすかな吐息と、ためらい。
 触れ合った胸の音が伝わって、うるさいくらいに拍動しているのがわかる。
 エリナは、きゅ、とクリスの服を掴む。
 それが合図だった。
 触れ合った唇はやわらかく、あたたかい。
 一筋の涙が唇に触れて、それが少しだけしょっぱかった。

 唇が離れて、冷たい温度が触れる。
 わずかな湿り気を残す唇に指先で触れて、エリナはほう、と息をした。

「エリー?」
「キスなんて、はじめてしたわ」
「え」
「前世でも、今世でも、唇同士のキスはしたことがないの。こんな感じなのね」

 エリナは笑ってクリスを見上げた。が、クリスは顔を覆ってなにやら呻いている。

「勘弁してください……心臓がはじけ飛びそうだ……」

 その顔は耳まで真っ赤で、それにエリナはまた笑った。
 これでハッピーエンド、全部解決の大団円だ。
 そう、思った。
< 283 / 315 >

この作品をシェア

pagetop