竜王の一途な溺愛~私が前世で孵した卵は竜王の卵でした!?~

 ぼろぼろと崩れていく黒い体。それは最初、抵抗しているように見えた。
 けれど、撫でるように焔が揺らめくたび、その力は小さくなっていき――やがて、黒いものの中、中心にある、鈍く輝くひとつの逆鱗が割れた瞬間、完全に消失した。

 燃えていく、燃えていく。
 カヤだったものが、小さくなって消えていく。
 そこにもはや自我はなく、カヤとしての意識もないはずだった。
 けれど――。

 最後に、少女のような影が、天に手を伸ばし、何かを言った。
 それは、間違いではなかった。

 白い炎が消える。呪いを生むものの中にあったのは、少しの灰と、割れて煤けた逆鱗。

「終わった、の……?」
「ええ」

 エリナの言葉に、クリスが答える。
 カヤは、救われてはいないだろう。けれど、最期の最後、手を伸ばした先に、わずかにでも救いのようなものがあればいい。

 見上げた空は高く、青く。エリナはそう思えるようになった自分にはじめて気づいた。
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