竜王の一途な溺愛~私が前世で孵した卵は竜王の卵でした!?~

「エリー、シチューの具材、取ってくるよ」
「あら、そう?じゃあ畑からニンジンとジャガイモをお願いできるかしら」
「まかせて」

 クリスが輝くような笑顔を浮かべ、裏の畑へと駆けていくのを見送って、エリスティナはクリスが脱いだばかりの、少し獲物の血のついた上着を手に取った。

 この家は、本当に竜種の隠居邸だったのだろう。
 クリスの服を縫うための布にも困ることはなく、はじめこそ、森の木の実などを採らねば生きては行けなかったけれど、畑の作物が実るころには、その自給自足で親子二人が暮らしていけるだけの収穫を得られた。

 そういう、豊穣の魔法が、畑にはかかっていた。

「クリスったら、脱ぎっぱなしにして……」

 エリスティナはふふ、とほほ笑んで、洗い場へと場所を移した。クリスの上着を水で濡らし、森の、オレンジによく似た果実の皮から作った洗剤をつけてこする。

 こういう知識が豊富でよかった。貧乏な伯爵家の生活の知恵が役に立つなんて、あの頃は思わなかった。
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