竜王の一途な溺愛~私が前世で孵した卵は竜王の卵でした!?~
ちなみに、不帰の森は今はない。地図上から消滅したのだ。
聞けば、エリナが生まれるよりずっと前に、20年前に即位した今の竜王――即位前の――が、森を焦土に変えたらしい。
つまり、エリスティナとクリスが過ごしたあの家も、畑も、もはやこの世のどこにもにありはしない、ということだ。
大切な思い出の場所だったのに、竜種は何もかもを簡単に破壊してしまう。
悲しい――おっと、おお、怖い怖い。
余計な感傷をごまかすように、エリナは首をぶんぶん振った。
エリナは洗濯ものをぱん、と広げ、物干しざおに干していく。
今日のご飯は何にしよう。お給料が入ったから、肉を少し買おうか。シチューなんかいいかもしれない。
そんなことを考えつつも、エリナは生まれ変わってから何度目かの決意をさらに固めた。
「絶対、竜種と結婚なんかごめんよ。今世は一生、竜種にかかわらず生きてやるんだから!」
ふんすふんす!と鼻息を荒くして、エリナはもう一度、ぱん!と小気味いい音を立てて洗濯物を広げた。