青空くんと赤星くん
春の夢いつまでも
今日は終業式。
いよいよ春も本番、というお天気で、桜の花びらよりも先に卒業生は去っていき、嫌でも次は終業式を迎えなければいけなかった。
今日で3組も解散かぁ。
窓側の席に座る人の仕事もこれで最後だ。
教室の窓を開けて換気をし、春の暖かい日差しを浴びた。
誰かがキャンバスに筆でサッと描いたような、かすれた白い雲が浮かんでいる。
それを窓枠が額縁のように切り取っていた。
「おはよ、くるみちゃん」
「岩井さん。おは、あー!!」
にっこりして近づいてきた岩井さんの後ろから、カラフルな絵が飛び込んできた。
黒板いっぱいにたくさんの似顔絵が描かれている。
「やっと気づいた?朝一番に学校に来てね、頑張って描いたんだ」
「すごーい!!……こういうの泣いちゃう」
「早いって」
「岩井さんは美術部員だったね」
「岩ちゃんでいいよ。みんなそう呼ぶし」
「じゃあ、岩ちゃん。あ、私の顔まである!」
「3組みんなあるよ」
ピンク色のチョークで二次元化された私が笑っていた。
髪が長くて耳が大きい私の特徴を実際よりも誇張して描かれているから、他の絵もどれが誰だか一目瞭然だ。
その黒板アートは登校してくるみんなを驚かせて、自分と自分のツーショットが撮れる映えスポットとしてにぎわった
「岩ちゃん、写真撮ろう?」
「とろとろー。あ、中野さん、おはよ。一緒に入って!」
ギュっと密着する中で腕をめいっぱい伸ばし、カシャ。
席替えがなかったらありえないメンツでのスリーショットだ。
「今送るね。加工は各自で」
「ありがとう。中野さん寂しいでしょ?中野くんとクラス離れちゃうから」
「春休みすら恋しいから、明日も登校したいくらいよ」
「うわ~。大丈夫だよ。二人は運命の赤い糸で結ばれてそうだもん。ね、くるみちゃん?」
「うん。糸っていうか縄でがっしりとね」
岩ちゃんも演劇の影響を受けていたみたい。
中野さんが眼鏡のブリッジをクイっとあげて、「もしも運命の赤い糸があるとしたら、世の恋愛の目標はその正しい糸と結ばれることで、違反は他の糸と結ばれることだと思うわ。それは他人の糸を狂わせるから。だからユエラオ様は私たち中野夫婦を来年度も同じクラスにするべきね。そう思わない?思うでしょう?」と詰め寄ってきた。
私と岩ちゃんは無言で何回も頷いた。
そのあとアイスと餅ちゃんもやってきて、私は四人にマカロンの手作りお菓子をプレゼントした。
半透明の細長い袋の中にマカロンが3個ずつ積まれ、黄緑色のラッピング用針金でしめてある。
その針金にはパンチで穴をあけた手紙も一緒に通していた。
昨夜、家のオーブンでマカロンを焼いている間に手紙を書いた。
アイスに餅ちゃん、岩ちゃんに中野さん。
休み時間によくお喋りしたよね、楽しかった。
クラスが違っても友達だよ。
だからこれからもよろしくね。
ありがとう。
そんなことをつづってみた。
感謝の気持ちを届けたいんだ。
四人はその場で開封して喜んでくれた。
餅ちゃんは「ありがとー」と頬にキスまでくれた。
遅刻ギリギリでやってきた赤星くんには酒粕クラッカーをあげた。
これはマカロンと違って甘い材料は使っていない。
「酒入ってる?」
「入ってるよ、不良くん」
酒粕でもアルコールは含まれている。
クラッカーの材料は、クッキーのように砂糖やバターを基本的に使わずにシンプルな材料で薄く仕上げるから、クッキーは甘くてクラッカーは塩味がきいている。
両方ともビスケットの仲間だけど、甘いものが苦手な赤星くんにはクラッカーの方が好みなはずだ。
「うま」
サクッサクッという音を鳴らしてどんどん摘まんで食べていく赤星くん。
その横顔を見ていると、前にご飯を一緒に食べたときのことを思い出し、余計にしみじみと見てしまった。