青空くんと赤星くん
下校デートは、駅裏から徒歩4分のところにある大きな公園なんだそう。
「ここ、フードトラックがよく来るんだよ」
「フードトラックって、ワゴン車でわらび餅とかホットドッグとか売ってるやつですか?」
「そうそう。キッチンが搭載される移動販売車。まだ17時前だから……いるかもね」
「いますよ!きっと!」
青先輩は右手にマップの画面が映っているスマホを持ち、左手は私と繋いだ手を振り子みたいに動かした。
浮かれているのが見え見えで、なんだかくすぐったい気持ちだ。
冬だから焼き芋屋だろうか?
定番のクレープ屋だろうか?
いやいや流行のドリンク屋だろうか?
「見っけ!たこ焼き屋だ」
青先輩が指をさした方には、赤色のトラックが停まっていた。
その周りに置いてある黒い看板には、たくさんの種類のたこ焼きが描いてある。
香ばしいソースが風にのって、マスクを超えて胃を刺激した。
「くるみちゃん、今日は甘いものじゃなくてもいい?」
「むしろたこ焼きがいいです」
「よかった。…………こんにちは」
青先輩が礼儀正しくお店のおじさんに挨拶をした。
私も慌てて頭をペコリと下げた。
「へいらっしゃい。何にします?」
私はオーソドックスな醤油味のたこ焼きを、青先輩はチーズたこ焼きをひとつずつ注文した。
待っている間、おじさんは作りながら私たちの制服を見て、「加茂高のカップルだね」と言った。
しまった。
私たちは手を繋ぎっぱなしだった。
スっと手を離そうとすると、ギュっと握られて動けない。
「そうです」
青先輩の反応は爽やかだ。
「ここはね、商業高校の近くだから、加茂高の生徒さんは珍しいんだよ」
おじさんはタコを半分やけた生地に素早くポチョポチョポチョポチョと種まきをした。
次にピックで半分やけた生地をクルクルと回転させていく。
この2倍速のような動きに、私は「すご~い」と声を漏らした。
作っている工程を見られるのは楽しい。
青先輩が「職人ですね」と言うと、おじさんは少し笑って言った。
「もともとは銀行員だったんだよ。数年前に脱サラしてこのたこ焼き屋を始めたんだ」
驚く私たちをよそに、おじさんは型からはみ出した生地も上手に丸め込んでひっくり返していく。
「こんなの慣れさ。半年経てば猿でもできる」
やったことがないからなんとも言えないところだけど、その本音の中には照れも入っているんだろうな。
「半年もかかるんですね。すごい手捌きです」
青先輩は感心したように言った。
結局、お金を支払うまで、手はずっと繋がれていた。
青先輩ってば、人前で恥ずかしくないんだろうか?
おじさんとのやり取りを見ても、きっと先輩には全方位外交ができる抜群の社交性やコミュニケーション能力なんかがあるんだろうな。
ふわふわと鰹節が揺れる出来立てホヤホヤのたこ焼きができあがった。
私たちは屋根つきベンチに移動した。