青空くんと赤星くん





「腹ごなしに散歩していこうよ。ここ、夜景が綺麗で有名なの知ってる?」
「ここが?知らないです」
「もうすぐわかるよ」



右手を引っ張られながら、私は公園を見渡した。
野球場くらい広いことをのぞけば、普通の公園に見えるけどな。
途中でブランコに乗ったりしながら、広い公園を歩いた。



犬の散歩をしている人がいれば、「あの柴犬可愛いですね」「しばけん、じゃなくてしばいぬ、って本当は読むらしいよ」と、何かと会話には困らなかった。
青先輩とは友達のような感覚でおしゃべりすることができた。



手を繋いでいることも忘れ、気が付くと空が茜色と紺青色が広がる夕焼けに変わっていた。
駅周辺のビル群が輝き出して、電光掲示板のような派手さはないけれど、幻想的な夜景だ。



「きれい!」
「マジックアワーってやつだね。ツーショット撮ろうよ」
「はい!」



肩を抱かれて、顔と顔同士をぐっと近づけた。
スマホの画面に映る2つの顔に、自動でピントを合わせてくれる緑色の四角い枠がはまって、二人とも顔認証された。



そういえば、美人顔には黄金比というものがあって、科学的に検証できるらしい。
青先輩は99%くらいの精度で、黄金比に近い顔立ちだと思う。



カシャッ



「後で送るね。観ながら帰ろうか」



さっき歩いた遊歩道はライトアップされて光る道に変わっていた。



こんな穴場に連れてきてくれてありがとうございます、と言おうとしたとき、公園の外の歩道から笑い声が聞えた。



ここからではよく見えないけれど、あの大きな声は高校生だろうか。
近づいてくるのがわかり、歩みが止まってしまった。



あっち側は暗いからよく見えないけれど、ライトアップされた私たちはあっち側からはよく見えるかもしれない。



「どうしたの?」
「あの。もう少しだけ、ここにいませんか?」



私は遊歩道から外れて、青先輩を暗い方へ引っ張った。



「くるみちゃんさ……けっこう大胆だね」
「大胆?」
「こんな暗い端っこで、俺と何したいの?」
「え?」



青先輩は繋いでいた手を離して、さっと両腕を私の腰に回して引き寄せた。
きゃっと声が出て、慌てて離れようとしたけれど、腰の後ろでしっかりと結ばれた両腕に抱きとめられてしまった。
私は腕の中で必死に訴えた。



「ち、ちがうんです!これはその、っわ!」
「しっ!」



私たちは咄嗟にしゃがんだ。
耳元で、「部活帰りの集団がたくさん来たよ」と青先輩が囁いた。
そして、「こんなところでいちゃついてたら、勘違いされるよ」と、おでこをくっつけて私を見つめた。



「ねぇ、いまあっちから悲鳴聞えなかった?」
「まじで?」
「誰も見えないよ~?」
「猫じゃねーの?」



訝しみながらも、なんとかその6人組の集団は通り過ぎて行った。
一息ついて、私は思い切って相談してみることにした。



「学校の子に、さっきの人たちは他校の子でしたけど、会うのは恥ずかしいなって思ったら、つい隠れちゃいました」
「学校の外で待ち合わせって、やっぱりそういうことか」
「青先輩は恥ずかしくないんですか?」
「まったく恥ずかしくないよ」



むしろ何が恥ずかしいの?と言いたげな表情だ。
それはそうで、青先輩は生まれたときからモテてきただろうから、今さら周りの目なんか気にしないんだろうな。



「くるみちゃんって、付き合うのは俺が初めて?」
「え?はい。そうです」



青先輩は優しく諭すように、
「冷やかされるのって最初だけだよ。そのうち慣れるもんなんだ」と言った。




「青先輩って今までどれくらいの人と付き合ったことあるんですか?」

「ん?」

「だってですよ、経験者は語るみたいな今の発言といい、こんな素敵な場所を知ってたり」

「そんなに多くないよ」

「そんなにとは、具体的に数字で言うと?」

「多すぎるってことはないと思う、くらいで勘弁してくれないかな」

「はぐらかすんですね。私は0人ですってちゃんと言ったのにな」

「それより、くるみちゃんが付き合ってることを内緒にしたいならいいよ」




青先輩はしゃがんで、うつむいてる私の顔を見上げて微笑んだ。
これは優しさだ。



「そうしようか?内緒ってなると、外でこうやって手も繋げないし、デートも場所が限られるけどね。誰にも見られない場所、かぁ……。あそこなんてどう?」



青先輩が見上げた先には、夜空に光るお月さまが浮かんでいた。



「月?どれですか?」
「月の裏側なら誰にも見えないよ」



プッと笑った私を、青先輩が立ち上がって抱きしめた。
さっきよりも優しい力なのに、くっついてる面積はずっと広い。
彼の右手が背中から後頭部まで上がってきて、私は力を抜いて青先輩の鎖骨らへんに頭を寄せた。



「帰宅ラッシュが終わるまで、こうしてようか」





< 13 / 115 >

この作品をシェア

pagetop