青空くんと赤星くん
放課後、今日も部活がお休みの私と、3年生で部活は引退している青先輩は、堂々と昇降口で待ち合わせした。
表玄関に近いグランドにいるテニス部の人たちが、私たちをあやしい雲行きでも見守るかのような目で見ている。
「誰も何も言ってこないね」
「きっと、カップルに見えないからですよ」
「じゃあ、手繋ぐ?」
「だめです!学校を出た後にしてください」
「わかってるって」
恋人同士だということを周りに知られてもいいけれど、イチャイチャするような姿を知り合いに見られるのは恥ずかしかった。
「なんか黒いのついてる。ここ」
青先輩が私の前髪をかきわけて、おでこをさすると、黒いものが付着した。
「きっとココアパウダーだ!」
「口周りならわかるけどさ、普通おでこにつくかな?」
笑いながらセーターの袖口で拭いてくれた。
そして、おでこにチュッとした。
「はい、きれいになったよ」
「青先輩っ!」
「誰も見てないから大丈夫」
私は周りを見渡した。
一瞬のことだけど、教員に見られていたら生徒よりも厄介だ。
グラウンドには1年生が準備しているだけで、まだそう人は多くない。
危なかった。
「それで、なに食べたの?」
私は昨日スマホで撮ったホットラムチョコレートの写真を見せた。
「へぇ。俺も大人になったら飲もう」
「私より一年早く飲めますね。いいな~」
「じゃあ、これはくるみちゃんと一緒に飲むまで待ってるよ」
「優しいですよね、本当に。そうしてもらっちゃおうかな」
「約束するよ」
約束。
ふと、私はこの素敵な彼氏と20歳になるまで付き合っているだろうか?と考えた。
さっき観た運命の赤い糸を思い出し、私と青先輩の足もとを見た。
縁結びの神様(また名前を忘れてしまった)にしか見えない赤い縄は、私と青先輩を繋げているのかな?
「くるみちゃん?どうかした?」
「いいえ。あ、そのラム酒で作ったお菓子があるんです」
私は鞄からラムボールを出してプレゼントした。
「いただきます!」
「製菓用のラム酒じゃないから、ちょっときついかもしれません」
お昼ご飯のとき、友達に配ったら、『少し喉に刺激が走った』と言ってた。
もともとお酒に弱い子は食べ過ぎないように注意が必要だ。
でも、青先輩はもう3つほどモグモグ食べて、顎に下げられているマスクの上にココアの粉を落としている。
うまく食べられない子供みたいで、私は手ではらってあげた。
「これいいね!リッチな味がする」
「やったぁ!」
「このココアがおでこについたんだね」
「はい。赤星くんにデコピンされちゃって」
今思い出した。
4限目の終わりに、赤星くんは「とんねーの?」と言った。
自分でつけてきたのに、教えてくれなかったんだ!
赤星くんってば意地悪だな。
「赤星ってあのでかい2年?」
「そうです。隣の席になったんです」
「やっぱり、誰かには見てもらおうか」
「え?」
「指、舐めてくれる?」
返事をする前に勝手にマスクを下げられて、ココアパウダーで黒くなった指先が甘い匂いと一緒に唇をわって入ってきた。
「っん」
「良い子だね」
口から抜いたその指を青先輩はペロっと舐めて、「足りないな」と物欲しそうに言い、私の唇を盗むようにキスをした。
ラム酒とチョコレートの相性は抜群で、初キスは美味しい味がした。
……って、そうじゃない!
「ここ学校です!」
「だから軽めにしたよ」
「そうじゃなくって!」