青空くんと赤星くん
店内は空いていて、注文した濃厚ショコラパフェはすんなりとテーブルに運ばれた。
ポップに書いてあった『インド産カカオ豆70%』は嘘じゃないらしい。
口に含むとチョコレートフレーバーが溶けていき、たまらなく、
「「おいしい!!」」。
青空先輩もそうみたいで、無言で頷き合った。
これは美味しいねって。
でも、美味しいは美味しいのだけど、向かえに座られると緊張してしまう。
「くるみちゃんって思った通り、甘いものが好きな子なんだね」
敬語をとって、さっきよりもずっと人懐っこい瞳を向けて、嬉しそうに笑った。
ついつい私もタメ口をきこうとしたが、私は高校2年生で青空先輩より1学年下だった。
私はパフェをゆっくりと味わって食べたい気持ちを抑えて、長いスプーンを置いた。
「『思った通り』って、どういうことですか?」
「くるみちゃんを見かけたとき、これ食べてたでしょ?俺もこのお菓子が大好物で持ち歩いてるんだよね」と、制服のポケットから『ちょこちょこタイム』というお菓子を出した。
それは私も毎日ポケットにしのばせて学校に持ってきているチョコレート菓子だ。
まさか、こんな100円足らずのお菓子がアイコンとして機能していたなんて。
「俺さ……大の甘党なんだ」
青空先輩は有言実行とばかりに濃厚ショコラパフェをペロリと完食した。
一緒に注文したドリンクは生クリーム入りココアで、チョコレート尽くし。
組み合わせからして、確かに甘党らしい。
「気が合いそうだなって思って見てたんだ。ほら」
青空先輩のスマホを受け取って画面を見ると、画像フォルダにはパステルカラーで統一されたチョコレートやケーキで埋め尽くされていた。
一見すればスイーツ好き女子っぽい、というか、「私のフォトブックかと思いました」。
フォトブックとはアプリ「PHOTO BOOK」のことで、自分の写真や言葉を投稿して皆と共有することができるものだ。
私のフォトブックは手作りお菓子の写真を、#甘党、#スイーツ、などのハッシュタグをつけて、たくさん投稿している。
「俺もそれやってる。フォローしてもいい?」
「はい。私もフォローし返しますね……って、フォロワー数すごいですね!」
スマホ同士を近づけたとき、見えた数字はもうすぐで3000人を超えそうだった。
「俺の知らない他校の人もフォローしてるみたいで」
青空先輩は赤い耳をかいた。
他校の生徒にまで自分のアカウントが知られているなんて、地元のちょっとした人気者というか、すごいなと思う。
風景や面白ネタっぽい写真にときおり混ざっている友達との写真は、とってもかっこいい。
密かに憧れてうっとりした子がフォローしちゃうのかもな。
「あれ?スイーツは投稿しないんですか?」
「……男でスイーツってだいぶ恥ずいんだよ。この店だって、男同士なら入ってないね」
「それわかります。私も男性ばっかりのお店には入れません」
「え?アダルトコーナーに行くの?意外だな」
「違いますっ!ラーメン屋とかですよ!」
机に身を乗り出して否定すると、手を叩いて笑われた。
なんだ、冗談か……。