青空くんと赤星くん

おやつの時間






「や~っと放課後だ~」



同じ料理部の仲間である餅ちゃんが、元気よく叫んだ。
言葉をのばす癖は彼女特有の喋り方で、お餅のように白くてふっくらした頬をしている。
とても健康的に見えるのは、それもそのはずで、実は10歳年上の彼氏と一緒に温泉旅行におでかけしていて、始業式からずっと休んでいた。



「間に合ってよかったよ」
「ほんとほんと~」



なんたって今日は3学期になってから初めて料理部の活動がある日だ。
そんな一発目に作るのは、みんな大好き『ブラウニー』である。



実は2学期の終わりにインフルエンザが流行って、1クラスだけ学級閉鎖になった。
料理部の活動はほぼ献立をたてるだけで、調理実習は見送られてきたのだ。
久々に調理室に集まった部員たちの顔は明るかった。



「みんな久しぶりだね」



部長の私は簡単な挨拶をした。



ちなみに、料理部には部員を食べ物の名前で呼び合う、という変わったルールがある。
一緒の班の小枝愛(こえだあい)はアイスだし、持田結花(もちだゆか)は餅ちゃん、というふうに、簡単なニックネームを入部のときに先輩につけられる。



牛尾田くるみは名前にクルミが入っているから、まんまクルミで定着した。
他に、小豆ちゃんもいるし、栗ちゃんもいるし、緑茶ンもいる。



ニックネームで呼び合うと、親しくなった気がする。
その効果なのか、うちの部はみんなほのぼのと活動していた。
そんな料理部が大好きだから、ブラウニーの献立をたててから、私もずっとこの日を楽しみにしていた。



ただ今日は、やらなければいけないことがひとつある。
顧問である家庭科教諭の松田先生こと抹茶先生は、来て早々に真面目な顔をして言った。



「今日は調理実習だけど、まず感染対策について言っておかないといけない。
今まで衛生管理に気をつけて活動してきたけど、2学期の学級閉鎖を鑑みて、留意事項をいくつか付け足すから、ちゃんと守るようにな」



みんながソワっとしだした。
調理実習は何かと時間がおすから、どうか長話はやめて、と思ったんだ。
実習にはもちろん実食も含まれている。
ということは、後片付けもきっちりしなければならないから、いつも時間との勝負だった。



抹茶先生がホワイトボードに大きな用紙を貼っている間に、私はプリントを配った。



「ノートはとらなくていいけど、よく聞けよ」



抹茶先生の見た目はゆるふわ系なのに、口調はけっこう男っぽい。



プリントには、主に『飛沫・接触感染』についての防止対策が書いてある。



「私がチェックするので、みんなはこれを見て行ってください」


実施方法の書かいてあるチェックシートをバインダーにつけて、私はみんなに見せた。
今、頑張って大きな声を出して言ってみたつもりだけど、後ろの方まで聞えたかな。



部長の仕事だから仕方がないけど、人前で指示を出すのは性に合わなかった。
部長決めのとき、アイスとジャンケンをして負けたことが悔やまれる。
今年に入ってじゃんけんをしていたら、私は大吉パワーで副部長だったかもしれないのにな。



抹茶先生は小さな目を光らせて、「風邪の症状がある人はいないよね?」ときいた。
そして、特に1月から3月は防止対策を徹底するように、と念押しした。
3年生の副担任もうけもっているから当然だ。



「今までの衛生管理の仕方とそう変わらないけど、これからも徹底してね。それじゃ始めて」



抹茶先生が合図をすると、アイス率いる2年生に習って1年生も動いた。
私はシートにチェックマークを打ってまわる。




窓を開けた  レ

マスク・エプロン・頭巾の着用  レ

爪は長くないか  レ

手洗い・うがい  レ

手指の消毒  レ






記載漏れがないか確認してから、抹茶先生のところへサインをもらいに行く。



「よし」




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