青空くんと赤星くん





各班のブラウニーも試食するから、自分たちの作ったもの以外にも、5つ分のブラウニーを食べなければいけない。



これは、抹茶先生いわく、「料理は色んな人の舌の上にのせられて上手くなっていくもの」だから。



これを諺ふうにいうと、「舌の上にも3年」。
つまり、料理未経験者でも高校3年間のうちに調理部のみんなに試食してもらえば、料理の腕前は上達するってことだ。



ただ、それだと量が多くて食べきれない子もいるから、食中毒から身を守ることも考えて、加熱調理後2時間以内に食べるのならば、持ち帰りはOKとしていた。
ほとんどの子が食べきれるけど、残して彼氏にあげる餅ちゃんのような子もいる。



私の「いただきます!」のあとに続いて、部員が「いただきます!」と言った。



マスクを外して、パクリ。
しっとりとした食感。
でも、口当たりは重くない。
濃厚なチョコレートにナッツの香りも合わさって、とっても美味しい。



「ナッツから焼きして正解だわ。すごく存在感ある」



アイスがクンクン嗅いだ。



「扇風機かけたとき匂いが飛ばないか心配だったの。よかった~」



「ナッツと一緒にドライフルーツも入れたら良かったかもね~」



餅ちゃんが提案した。



「ドライフルーツ、メモっとくね」



私はレシピに走り書きをした。
今度の反省会のときに思い出せるように。



ブラウニーに入っているのは、クルミとアーモンドとピスタチオだ。
ナッツをから焼き、つまり煎ると水分がとんでカリっとする。
ときどき、チョコチップのようなチョコの塊がアクセントになって、口の中が楽しい。
チョコレートの刻み方を細かいものと大きめのもので切り分けたのは大正解だった。
私たちの班が一番おいしく作れたんじゃないかな、と自惚れるほどだ。



残さず完食して、大満足の合掌。
「ごちそうさまでした!」



時計を見ると、部活終了まで残り20分。
これなら、「片づけ急いでねー」と注意しなくても大丈夫なピッタリの時間に終われる。



3年生が引退するとき、せんべい部長から言われたのは、「時間内に終わるように、部長は周りの様子をよく見てサポートしてあげるんだよ」だった。



「どうしたの?」


アイスが台を拭きながら私にきいた。



「5斑のブラウニーが気になって」



各班のブラウニーを食べ比べしたとき、5班の出来映えはあまりよくなかった。
味は甘くておいしいけれど、少しドロっとしたテクスチャーと、角も崩れていた。



「もうちょっと冷ましてからペーパーをとってたら、きれいなパウンド型に仕上がったよね?5斑の子たちを、もうちょっと見てあげられたらよかったなって」
「でしゃばんのもよくないって。次の反省会のとき、自分らで話し合うでしょ」



親切とお節介の境界はどの辺なのかな?
人は親切にされると近づいてくるけれど、お節介だと遠い距離をとりたがる。



いきなり頭によぎったのは、中学生の頃のバレンタインの日……。
これは嫌な思い出だ。
私は頭を振って追い払った。



「アイスの言うとおりかも。口出し手出しは無用かな」
「失敗してなんぼよ」



餅ちゃんが食器を拭きながら、
「親切な部長さんと不親切な副部長さん、さっさと片付けしてね~」
と、声をかけた。



アイスがアルコール消毒液の入ったスプレーで餅ちゃんの顔にシュッとひと吹きしてから、いろいろなところに吹きかけていった。


きついアルコール消毒液の匂いが部屋中を行き渡り、丁寧な片づけが終了したころには、充満していたブラウニーの匂いは消えていた。




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