青空くんと赤星くん





災厄なことに、こういう日に限って部活がある。
昨日作ったブラウニーの反省会とレシピまとめだ。
普段なら三人そろって調理室に行くけれど、今日はどうしよう。
私だけ先に行ったら感じが悪いよね。
それとも、私がいない方が餅ちゃんは都合がいいかな……。
帰りの支度をしながら悩んでいると、アイスがやってきた。



「餅は休むってさ」
「そんなぁ」



餅ちゃんの席は空席。
先に帰ってしまったようだ。



「追いかけた方がいいかな?」
「怒りん坊はほっときな」
「でも……」
「妬いてんだよ。餅も甘党王子様のこと好きだったし……。さまに、焼き餅ってね」



アイスの言うとおりかもしれない。
謝ったあとは、待つしかない。
私はアイスと二人で部活に行くことにした。



反省会が始まると、それぞれの班が「あの日は時間がなかったから下準備ができなかった」や「もっと良いシートが欲しい。安値だから破れたんだよ」と、話し合った。



砂糖の数量を変更したり、矢印でひっぱって一言メモを添えたり、注意するべき工程を色ペンでひいたりもした。


そうやって実習のときに見ながら使ったレシピをブラッシュアップしていき、オリジナルレシピを完成させる。



私は各班の机によって、声をかけに行った。
昨日気になった5斑は、半分の子が休んでいた。
米田さんこと米粉と、白川さんこと白玉粉の、いつも一緒に居る二人組だ。
私は5斑のリーダーに話しかけた。



「できたかな?」
「あ、はい。一応」
「わ~。ブラウニーの絵、上手だね。工程の図もわかりやすくていいね」



絵を描いた子が恥ずかしそうに首をふった。
問題だった形が崩れた点も、しっかりと注釈して解決策が書かれてある。



「完璧なレシピだね。これなら次は上手く作れるよ。ところで、他の二人はお休み?」
「あー、はい……」
「あ、別にいいんだけど。このレシピ、休んだ子にコピーして渡してあげてね」
「あの!ちょっとお聞きしてもいいですか?」



リーダーの子が語気を荒めて私の目をじっと見た。



「うん、どうぞ。って、私もブラウニーはそんなに作ったことないけどね」
「ブラウニーじゃありません。青先輩のことです」
「……そっちかぁ」
「はい。付き合ってるって本当ですか?」



私が思わず目をそらすと、その先で部員みんなと目が合った。
アイス以外の子が興味津々でこちらを見ている。
驚いている子がいないのは、もう隅々まで広まっているってことかな。
付き合っていることを言い振り回したり、『青空』と刺繍の入った彼ジャージを着て匂わせをしたわけでもないのに、なんということだ。
抹茶先生まで耳を傾けている。
勘弁してよ。



「そ、そうだよ」



キャ~と言う黄色い声が上がった。



「すごい!」
「先輩さすがです!」
「料理部の星!」



色んな子から褒めてもらえてこそばゆかった。
でも、青先輩と付き合えてすごい、とは言われても、クルミ先輩と付き合えてすごい、という声が上がらないのは、人徳のなさだよね。
ええん。



「本当なんですね。……それなら、もう二人は来ないかも」



リーダーは悲しそうに言った。



「どういう意味?」
「あの二人は青先輩の大ファンなんです。クルミ先輩と付き合ってるってきいてショックだったみたいで、今日は休んじゃったんです」



黄色い声がやんで、その場が静まりかえった。
私は餅ちゃんといい、部員の二人といい、睨んできた先輩たちといい、色んな人の気持ちを怒らせたり悲しくさせていることに気がついた。



「甘ったれめ。失恋で部活を休むな。ほら、書き終わったら見せに来て」



抹茶先生が沈黙を破ってくれた。



部活が終わったと、アイスは「あの白玉米粉はほっとけ。これは副部長命令」と部長に命令して、雨のなか傘もささずに自転車に乗って帰って行った。




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