青空くんと赤星くん
1キロはありそうな唐揚げを持って教室へ入ると、急に餅ちゃんが抱き着いてきた。
「クルミが生きてた~」
「お、おはよう。どうしたの?」
「アイスから話聞いたよー。クルミがネットで悪く言われてて、餅すごく腹立ったんだ。あの姫ってやつ陰険すぎるー!」
「そもそも、あんたが一緒に食べたくないとか言ったから、面倒な写真撮られたんだろがい!」
「アイスおはよう。メールありがとうね」
「なんだ、元気そうじゃん」
「昨日より元気だよ」
笑ってみせると、アイスも餅ちゃんも目を丸くしてパチリ、意外だ!という顔をした。
やせ我慢じゃなくて本当に元気がある。
その理由を二人に話した。
すると、また二人は意外だ!という顔をした。
「赤星がそんなに面倒見いいやつだったとは」
「人って見かけによらなーい」
「たしかに見た目は怖いけど、ああ見えて優しいというか、面倒見のいい人なんだよ。……私さ、まだ姫のPHOTO BOOKは怖くて見れないんだけど、あの写真は削除されたかな?」
「されてたよ。安心しな」
「よかったぁ」
「あれから投稿は、ひとつしかないよ。いつもの青先輩カッコイイのつぶやきしかない。もしかして、赤星の牽制がきいたのかも」
「「なにそれ?」」
私と餅ちゃんは仲良く声を揃えてアイスに質問した。
昨日の喧嘩は昨日で終わったのだ。
「あの盗撮のツイートにさ、赤星が昨日の夜リプ飛ばしたんだよ。『隠し撮りしたあげく、無断でSNSにあげるのは、違反とか抜きに人としてアウト。削除しなかったら、その面剥がしてやる』って」
「おー。言うねー」
「そんなぁ。それって逆にさ、赤星くんに標的が変わったりしないかな?」
「残念だけど、女の恨みは女へ向かうって言うからな。あたしは、ますますあんたをロックオンしたと思うよ」
「それならいいんだけど」
「牛尾田め赤星まで味方につけやがった、ってね」
「ありえるー」
「そんなぁ」
「赤星もモテるからな。次はそっちのファンから狙われたりして」
「え?モテるの?」
「女子柔道部の友達が言ってたけど、けっこう人気らしいよ。柔道も上手いんだって」
アイスが両手で拳銃のポーズを作って、左右片方ずつで「パン!パン!」と空砲を打ってきた。
片方だけ被弾した気がして、私は胸を押さえて見せた。
どうしてか、本当に胸が苦しくなったのだ。
そろそろ朝のSHRの時間になり、みんながぞろぞろと着席した。
ほら、赤星くんがやってきた。
時間ギリギリに来るのは、家から学校まで遠いせいだったんだな。
大きな体が隣にあると、見えない敵から守ってくれる盾ようで安心できた。
「見すぎ」
「そっ、そうかな。おはよう。昨日はありがとうございました」
「やだね。おかげで寝不足だ」
大きな口を開けて、本当にあくびをした。怪獣のあくびみたいに豪快だ。
「お礼に、宿題写させてあげる。数学だけだけど」
「よこせ」
やっぱりやってなかったんだ。
私は今朝急いでやったノートを渡した。
眠たい目をこすりながら、回らない頭で解いたから、自信はない。
「空白あんじゃん」
「わからなくて」
「途中式は書いてやるから、自力で理解しろ」
「わかるの?」
キっと睨まれた。
でも、もう怖くはなかった。
浅黒い肌も、今では頼もしく感じられるくらいだ。
「唐揚げをね、昨日の柔道部のみんなに持ってきたの。エビフライのがよかったかな?」
「エビより鶏が好み」
「よかった。お昼に渡しに行きたいけど、また撮られて迷惑かけたらいやだし、渡してもらえない?本当は直接謝りたかったんだけど」
「今日は別棟の一階で食うぞ。午後から雨らしいからな」
「それなら大丈夫かも。雨降ってほしいな」
「律儀なやつ。ビーフのせいじゃねーぞ」
「ビーフって呼ばないで」
数学、体育、英語、日本史が終わって、やっとお昼休みがやって来た。
外は小雨が降っている。
アイスと餅ちゃんに事情を説明すると、一緒に行くと言ってきかなかった。
「来ない方がいいよ。また撮られるかもしれないし」
「最終的には削除したんだしー。もうしないと思うなー。ね、アイス?」
「あたしもそう思う。それに、もし撮られても、女三人なら問題ないっしょ」
「はいレッツゴー!」
すでに教室にはいない赤星くんの後を追うように、私たちも別棟に向かった。