青空くんと赤星くん
柔道部の面々は、ご飯粒を飛ばし合いながら食っちゃべっていた。
「盗撮の罪にはならねーんじゃね?俺たちの誰も裸じゃねーし」
「エッチな写真じゃないからってこと?」
「きっとな」
「でも、俺たちの許可はとってねぇよな。納得いかん。あ、プライバシーの侵害じゃね?」
「昼飯食ってるだけの写真がプライバシーの侵害にあたるわけねぇだろ」
「それを言うなら、肖像権?の侵害だって」
「あれって、商業利用されたときのものだよ。別に金とってないから違うって」
「違くね?勝手に撮られたら侵害にあたるって」
「マナー違反なのは間違いなし」
スマホひとつで調べられることでも、昼休みという貴重な時間をさいて条例や法律を調べ出す理論派はいないらしい。
「あの。食事中にすみません」
「あ。……牛丼、だったっけ?」
「牛尾田、です。昨日の写真の件で皆様に謝罪しに参りました。勝手に撮られて不快だった方も多いと思います。私事に巻き込んでしまい、申し訳ございません。こちら、謝礼の唐揚げです。お納めください」
私が頭を下げると、後ろで侍女のようにひかえていたアイスと餅ちゃんもペコリと頭を下げた。
「よかろう。唐揚げ様を、こちらへ」
望ちゃんの彼氏らしき子が声を低くして言うと、違う男子が恭しく受け取ってくれた。
「では、これにて。ご無礼つかまつった」
「下がってよろしい」
階段を上がりながら、アイスが「男子ってノリがいいよなぁ」と褒めた。
「それよりさー。餅、好きな人できたかもー」
「は?なんそれ。今のでってこと?」
「うん」
「だれ?」
「赤星くん」
私は階段を一段踏み外した。
「の、隣の隣にいた人」
「唐揚げを受け取ったやつなら渡辺だよ。たしかにイケてるっちゃイケてんな」
私は胸を撫で下ろした。
危うく階段で転ぶところだった。
教室へ戻って、すぐにお弁当を食べた。
今日はお赤飯じゃない。
ということは、お母さんについた嘘はバレず、私が大丈夫だって思われてる証拠だ。元気の太鼓判を押されたみたいで、もっと元気が出た。
別のタッパに分けておいた唐揚げを二人にもあげた。
「うまい~」
「お母さん天才だね~」
「伝えておく。でもね、タレは私が作ったんだぞ」
「マヨネーズってすっごい優秀だよね。明太マヨとかソースマヨとか、なんでもこいだ」
「オーロラソースとかー」
「からしマヨとか」
マヨラーになりかけていると、教室のドアのところに青先輩が立っていた。
「くるみちゃーん!」
「……」
教室がテスト中のような静けさをみせた。
思わず、チラっと餅ちゃんを見ると、背なかを叩かれた。
「いきなー。私、もう渡辺くん狙うって決めたから」
「餅ちゃん……。渡辺くんのこと、全力で応援するから」
「約束ー」