青空くんと赤星くん
「んでクルミ、あんたという女は食べるだけ食べて、おごってもらっておいて、ふった、と?」
アイスこと小枝愛はスマホを握りしめて目を細めた。
「ふってないよ、ふってない。ただ、考えさせてほしいって言ったの」
「一体全体、何を考える必要があるの?誰に告白されたと思ってるの~!」
「しっ!教室で叫ばないで!」
2年3組の教室は静かだ。
朝から小テストがあるからね。
考えたくないけれど、あと一時間もしないうちにやってくる。
考えている人はノートとにらめっこをして静かにしている。
私たちもそうするべきなんだろうけど、どうしても朝一番にアイスに聞いてほしかった。
アイスはその小さな手では使いにくそうな大きめのスマホで、甘党王子様のPHOTO BOOKを開いた。
昨日食べたスイーツが数枚投稿されている。
スイーツの投稿は恥ずかしいって言ってたのにな。
私たちは小声で、青空先輩のことを甘党王子様と呼ぶことに決めた。
「いつの間に撮ったんだろう?」
「あんた、食い意地はってパフェに夢中だったんでしょう?」
「そんなこと……」
と言いかけて、告白を忘れて食べていたことを思いだした。
「それか、青先ぱ、じゃない、甘党王子様ばっかり見てたとか」
「それなら気づくはずでしょう」
「これ、クルミが作ったマンディアンじゃない?」
「うん。これも載せてくれたんだ……」
そして、投稿された写真と一緒に添えられている文には、『マンディアンが一番おいしかった!』とある。
「嬉しいな~。お菓子作りの意欲がわいちゃう!」
「あのねぇ。これは下心よ。OKしてほしがってるの。きぃ~!あたしだって甘いもの大好きなのに!」
「そこなんだよね。他の子だってたいていは好きだと思う。なのに、どうして私なのかな?」
「う~ん。クルミは甘いものが主食って感じじゃん。甘党同盟でも結べそうってくらいそればっかり。
あ~あ。あたしも学食でうどんとか丼物を食べるんじゃなくって、クルミみたいにお菓子ばっかり食べときゃよかったかな?」
「わからないよ」
「いや否定するところ」
アイスはマスク越しに咳払いをして、私の手を握った。
「クルミはかわいいよ。見た目も中身も。だから告白されたの。自信もってOKしなよ!」
「ありがとう~。でもね、それだけじゃないの」