青空くんと赤星くん
羊の皮を被った狼
2月に入った。
1月のカレンダーを捲ると、テストまでもう1週間ちょいしか残されていないのがよくわかった。
暗い気持ちで電車に乗ると、車内は塾の学習室のように参考書と赤シートを膝の上で広げている生徒がたくさんいた。
吊革につかまっている背広姿の男性を塾講師に見立ててその横に立ち、私も自分でまとめたノートを見た。
通学時間まで勉強にあてても、学年末考査は出題範囲が1年間分と広範囲だから、勉強計画どおりに最後まで実行できるか不安だった。
テスト勉強っていつも計画倒れしちゃうんだ。
ひとつのタスクをこなすのに思ったより時間がかかってしまうから。
テスト3週間前なら前倒しで計画を立て、調整日も入れておけたけれど、あと1週間ほどしかないから無理だ。
どうしてもっと早めに勉強しておかなかったかな……。
誰にも聞こえないように、小さくため息をついた。
テスト期間中は部活動がお休みだから、朝練のない学校の雰囲気は全体的に落ち着いていた。
アイスか餅ちゃんが登校するまで、勉強アプリで演習問題を解いていると、青先輩からメールが届いた。
『おはよう』
『おはようございます』
『言い忘れたんだけど、実は3年生は2月から自由登校なんだ』
『そんな!今日は学校に来てないんですか?』
『そうそう。またねって言ったのにごめんね』
『仕方ないですよ。でも、もう一緒に帰れないんですね。寂しいです』
『卒業式の準備に、少しだけ行くけど、基本そうなんだ』
『登校日は教えてくださいね!』
せっかく部活がお休みなのに、一緒に帰れないどころか、学校にいないなんて。
天井を見上げて、次に窓の外を見た。
朝から青空が広がっている。
こっちの青空が消えるわけないね。
「卒業式も学年末考査も、こなければいいのにな」
青先輩のいない学校が、急にコンクリートの塊に思えた。
今までは気がつかなかったけれど、学校に彼氏がいるってだけで、けっこう感情が左右されていたんだな。
ポンポン、と二連続でメールが届いた。
『急に恋しくなっちゃったでしょ?』
『勉強教えてあげる。俺のうちにおいで』
「はよ」
どかっと隣の席に赤星くんが座った。
昨日のいかにも弱った様子とは真逆の、いかにも強そうな、普段通りの赤星くん。
「おはよう!昨日は家にちゃんと帰ったんだね」
「は?」
「昨日はなんだか無性に心配になっちゃって」
「俺はそこまで不良じゃねーぞ」
「そうかな?けっこう夜遅くまで遊んでたでしょう?デートの帰りに駅で赤星くんのこと見たよ。ゲームし、ッキャ!」
両肩がグワっと揺れて、私は椅子ごと赤星くんの方を向かせられた。
「見たのか?」
「い、一瞬だけど」
親指と人差し指をピンセットみたいにして、「少しだけ」と示した。
掴まれた両肩が痛くて、手をパーにして降参のポーズをとると、赤星くんは自分でも驚いたのか、パッと手を放してくれた。
「赤星くん?」
何度呼びかけても神妙な面持ちで前を向いたままで、「うっせーな」の一言も返してくれなかった。