青空くんと赤星くん
電車の狭いシート幅に合わせて、ワンピースの裾の広がりを折り込んで座った。
しっかり股を閉じようとしないと、いつの間にかカパッと開いてしまうから、意識して内ももに軽く力をいれた。
『女性はしっかり脚を閉じるのよ。物を拾うときも、どんなときも』というお母さんのしつけは、そうしないと下品でだらしのない女性に見られるわよ、というものだ。
『いわゆるお股がゆるい、ということよ』なんて間違った知識まで教えてくれたな。
お股がゆるいって、何歳から股を開いたらそうなるのかな?
好きな相手でもだめなのかな?
青先輩に体をゆるせなかったのは、たぶん今はまだ思い出が不足しているからだよね。
受け入れてあげられなかったことに対して後ろめたさはあったものの、英断だったとも思っている。
メモリーが容量いっぱいになったら、好きも大好きになっていて……、そのときが……。
あああ。
とりあえずはテストが優先事項だ。
もらった英単語帳を出そうとリュックを開けたら、内ポケットに封筒が入っていた。
わっ、忘れてた!
今朝、家を出る前にお母さんから、『あっちまで行くなら、たい焼き買ってきてよ。テレビで紹介されてて一度食べてみたかったの。おつりはあげるから』と1000円もらったんだった。
『あと3分ほどで発車いたします。閉まるドアにご注意ください』
「たい焼き食べたい!」
私は電車から飛び出した。