青空くんと赤星くん
今度は私が咳払いをしてきいてみた。
「どのくらい好きになったら付き合うんだろう?って悩んでるの」
「は?付き合うかどうかは告白のタイミング次第でいいんじゃん。そのとき少しでも好きなら付き合えばいいし、少しも興味ないならふればいいし」
「その少し好きって、どれくらいの?」
「クルミは大好きレベルでないと付き合っちゃだめだって思ってるの?」
「だめっていうか、付き合うなら好き同士じゃないと、とは思うから、この気持ちがただの興味がある程度なのか、少しは好きなのか、その境界がわからないなって」
「な~る~」
アイスは目をつむって腕を組んだ。
クラスメイトが次々に登校してきて、教室は混み始めた。
今私が座っている席は赤星くんの席だけど、彼はいつも時間ギリギリにならないと来ないから、まだ退かなくて大丈夫だ。
私は勝手に座って怒られないかソワソワしながら、そして遅刻しちゃわないかとヒヤヒヤしながら、毎回彼を待っているのだ。
「これからクルミに3つ質問します」
「あ、はい」
「その1。彼と話すとドキドキしますか?」
昨日はたしかに緊張していたから、「はい」だ。
「その2。彼のことを無意識に目で追ってしまいますか?」
これも、「はい」だ。
あんなにきれいな人は芸能界でもそう見ないもん。
「その3。彼とキスしたいと思いますか?」
「き、きす?ええ~」
「したいくせに~」
「きょ、興味はあるけど~」
「なら、『はい』だね。結果は全て『はい』でしたので、付き合うべきでしょう!」
なんだか違う気がしたけれど、うまく言葉にできなかった。
ぼやけた視界の先を見ようとして目を凝らすけれど、そもそも対象自体にモザイクがかかっているから、しっかりと見ることができないというか。
アイスは甘党王子様のマンディアン投稿に『グッドボタン』を押した。
「今はまだ青先p、ああっと、甘党王子様だった。甘党王子様の片思いって感じだけど、好きな気持ちがちょっとはクルミにもあんだから、両思いになるように育ててみれば?」
「育てる?」
「うん。ほら、あの中野夫婦を見てよ」
教室の最前列でくっついて盛り上がっているのは、学級委員の二人でもあり恋人でもあり、苗字まで一緒の『中野さん夫婦』だ。
中野くんの、ちょっと失礼だけど面白くない冗談に、中野さんは大笑いする。
傍から見ればどこがウケるのかわからないところでもそうだから、中野さんのツボなんだろう。
「なんかいいよね。仲良しなところ」
「バカップルって感じ。でもさ、中野夫婦も最初からああだったわけじゃないじゃん。
たしか、中野さんの片思いから始まったんだよ」
そうなんだ。
バカップルって出会った瞬間にお互いにピン!ときて、速攻で超仲良しになるイメージがあったけれど。
私もあんなふうに幸せになりたい、という思いが沸々と湧き上がってきた。
好きとか付き合うとか恋とかは、よくわからない。
わからないから、行動してみたらいいじゃん。
目を凝らしても見えないなら、近づいてみなきゃ。
アイスがスマホをしまおうとしたとき、ちょうどPHOTO BOOKから通知がきた。
甘党王子様が友達と教室で一緒に撮った写真で、『下の教室が気になる』と書いてあった。
「下?」
「はは~ん。分かった。あたしわかっちゃった」
「なになに?」
「ヒント。甘党王子様は3組」
「……わかんないよ」
「下ってのはこの教室よ」
そう言ってアイスは、細い人刺し指を上へ向けた。
「3年3組の下は2年3組」