青空くんと赤星くん





「すぐ戻る」



赤星くんは病院へ入っていった。
私は外の玄関口でお母さんに電話をかけた。
たい焼きは無事にゲットしたことは言えても、髪や首を触られたことや自転車にひかれそうになったことは言えなかった。
言わないでおいた。



帰りの到着時間を伝えたら、「どうしていつもギリギリで連絡するのよ!」と怒られたので、謝るだけ謝ってからすぐに切った。



1階で面会の手続きを済ませた頃かな。
病棟に少女漫画を持って入った赤星くん。
楽しみにしていた漫画が届かなくていじけている妹さん。
今日はもう読めないと諦めていたら、思わぬ来客が。
今は喜びの真っ最中かな。



ひき逃げ犯を探してくれて、漫画の再配達までしてくれて、かわいんだ、と言ってくれるお兄ちゃんなんか、懐くに決まってる。
会ったことはないけれど、お見舞いに来ないと怒る妹さんの気持ちは、私にもわかる気がする。
隣の席に赤星くんがいると、私だって安心しちゃうもん。
面会時間ギリギリまでゆっくりしてあげなよ。



そう思っていたのに、赤星くんはすぐに戻ってきた。



「もう寝てたから、置いてきた」
「ほんとに?ゆっくりでよかったのに」
「寝不足なんだよ。夢でうなされて、寝てる途中によく起きちまうんだと」
「そっか。今日はお兄ちゃん来てくれたし熟睡してるかもね。熟睡というか、安眠かな」
「今日の場合はふて寝だ」



ところが明日の朝、枕元にある新刊を見て、クリスマスの朝みたいに喜ぶ妹さんが想像できた。



曇っていて月明りのない夜を、昼間のように駅までのんびりと歩いた。
右隣にいる赤鬼のおかげだ。



「降りる駅はどこ?」
「送るって言ったろ」
「お母さんに駅まで迎えに来てもらうから大丈夫。赤星くんはいつもの駅で降りて」
「あの過保護な牛母なら大丈夫だな。俺、次の次で降りっから」
「牛母じゃない!もう」
「モウモウさん」
「もういいから。えっと、今日はありがとう。妹さん、早く良くなるといいね。赤星家みんなのためにも」
「礼なら弁当でいいぞ。購買は飽きた」
「お母さんは作らないの?」
「見舞いに毎日通ってるから忙しんだ」
「あ、だから私のお母さんが送っていった日、まだ赤星くんのお母さんは帰ってきてなかったんだね」
「そ。警察の事情聴取とか、病院やら市役所の手続きがけっこうあるらしい」
「親御さんも大変なこといっぱいなんだ」
「事故なんて良い事ひとっつもねぇ」
「毎日つくってくる。お弁当」
「は?それはだめだ。彼氏いるやつが何言ってんだ」
「あそっか。そういうものなんだ」
「普通はな」
「じゃあ、城元駅でひき逃げ犯探しする木曜日だけ。頑張らなきゃいけない日でしょう?」
「……」
「赤星くんには私がついてるよってこと!」



ちなみに、私のお母さんもね。
スーパーヒーローが誰かの叫び声を聞いた途端に、地面を蹴って空をビューンと飛んでいく気持ちがよくわかった。
居ても立っても居られないんだ。
大事なことを打ち明けてくれたことも嬉しかった。
力になりたいよ。



「月曜日ね!バイバイ!」
「またな。牛蛙」



今までで一番いい笑顔を見せてくれた。




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