青空くんと赤星くん
学年末考査がやってきた。
今学年では最後のテストで、自分が今までどれだけサボってきたかを大反省する不要なテストである。
みんなが一生懸命に一問一答をして、必死に頭にワードを詰め込んでいる。
テスト10分前の今、3組の教室にはくもり空が広がっていた。
見えないけど、他の教室も似たようなもんだろうな。
私はポケットからちょこちょこタイムを出して、三粒一気に食べた。
「ほんっと、つまみ食いばっかだな」
隣の席でノートを読んでいる赤星くんが言った。
「あ、私にもくれない?脳を活性化させないと」
斜め前の岩井さんが手を出した。
その手に3粒出してあげる。
岩井さんとも赤星くんとも席替えしてからよく話すようになった。
「赤星くんもどうぞ」
「いらねぇ」
「初めて隣の席になったときも、そう言って断られたなぁ」
「そうなの?赤星くんひどいねぇ」
岩井さんが赤星くんのほうを向いた。
岩井さんはふんわりした雰囲気の子で、初めは私たちの会話に入ってこなかったけれど、しだいに後ろを向いて混じるようになった。
「酒が入ってたら食うよ」
「不良だ」
「あ?誰が不良だって?」
鋭く睨みつけられた岩井さんは「ヒッ」と小さな悲鳴を上げて、前を向いてしまった。
「怖がらせちゃだめだよ。赤鬼って呼んじゃうぞ」
「牛若丸のくせに生意気」
「牛若丸って。すごいのきたなぁ」
「源義経の幼名だ。出たらラッキーだけど、んな問題は出ねぇな」
「なんか聞いたことあると思ったの」
「間違って自分の名前書くなよ」
「書かないよ!もう。誰が武将だっつーのよ。……あ、口が悪くなってる!赤星くんのがうつったんだ」
「あ?」
「そのうち私もあ?とか言いだすのかな。やだやだ」
「牛若丸の血だろ」
「だから牛若丸って呼ばないでってば」
歴史の流れをおさらいしようと適当に教科書をパラパラしたが、流れを掴むというよりもその出題範囲の長さが気になってしまった。
「うう。緊張してきた。……赤星くんは日本史得意な方?」
「俺は何でも一通りはできる」
「それはすごいね」
「嘘だと思ったな?勝負するか?」
「思ってないけど……。うん、してみようかな」
勝負の日本史テストが始まった。
とはいっても、私は日本史に限らず世界史も苦手だ(もっというと、科目は一通り苦手よ)。
けれど、今回は青先輩という顔良し頭良しのスーパー家庭教師がついていたから、いつもよりは高い点数をとれるはずだよね。
漢字はこれであってたっけ?という不安はありつつも、けっこう手ごたえを感じながら解いていった。
6 次の空欄に当てはまる人物を答えなさい。
(A)一ノ谷の戦い、屋島の戦い、壇ノ浦の戦いにおいて平氏を滅ぼした「ア」は、源頼朝の~
あ!
これ、さっきやった牛若丸だ!
源義経!
なんてラッキーな。
私がしっかりとした字で『源義経』と書いたとき、隣の席から「フッ」と鼻息の漏れる音がした。
もしかしてカンニングされてる、わけないか。
同じペースで進んでいただけだ。
牛尾田くるみなんて書かないもんね。
私はふふんと鼻息をついて、テストに集中した。