青空くんと赤星くん





5日間にわたるテストが終了した。
私とアイスと餅ちゃんは放課後にお疲れ様会と称して、近くのお菓子屋さんに遊びに行くことにした。
なんたって、今週の土曜日がバレンタインデーでもあるからだ。
今日を合わせたらあと3日しかない。



製菓用品店の中は、バレンタインシーズンということもあってか、女性たちですし詰め状態だった。
テーブルクロスの上に大量の箱が山積みにして置かれている。



サンタの倉庫ならぬ、チョコレートの倉庫……ハッピーバレンタイン!



「うわ~。市販品大人気だね~」
「もう買っちゃおっか。あれも誰かの手作りっちゃ手作りだし」
「料理部員たるもの、ちゃんと作ろうって約束したじゃん。あっちだよ」



混んでいるイベントスペースは後回しにして、私と餅ちゃんでアイスを引っ張りながら材料コーナーへ向かった。



「これ、カカオ分80%のビターチョコレートだってさ」



私は外国産の高級そうな袋を手に取った。
どれもこれも、スーパーのお菓子作りコーナーでは見かけない品ばかりが置いてある。



これは48%だって。
これバニラで風味がつけられてるんだって。
これ甘味と苦味のバランスがいいって書いてあるよ。



手当たり次第に手に取って、うんたらこうたら言い合った。
味はわからないけれど想像の余地は十分にあって、見ているだけで楽しい。



「チョコレート、どうする?」



アイスがきいた。
どうする?とは、板チョコを買うのか、タブレットタイプの製菓用のチョコレートを買うのか、という意味だ。



チョコレートとは、カカオ豆が原材料で、そこにカカオマスとカカオバターが入ったものから作られる。



お菓子の板チョコには、チョコレートに乳成分や砂糖や香料などが加えられているから、そのままパキパキかじっても美味しいようにできている。



それに比べて、製菓用のチョコレートは材料として使われるため、砂糖が控えめだったり、油分がカカオバターだったりするから添加物が少なく、そのままでカカオの風味が強く出る。



完成されたお菓子のチョコレートにするか、材料の製菓用のチョコレートか、どっちにしようか。
後者の方が、自分好みに調整できるし、さらさら溶けてくれるから仕上がりが綺麗だ。



「ここは玄人っぽく製菓用にしたいな!」

私は言った。



「そーだよね。本格的に手作りしなきゃ料理部員じゃな-い」

餅ちゃんが賛成した。



「抹茶先生も材料に拘れって言ってたしね」

アイスは市販品から寝返った。



そうだよ、そうだよ、三人なら何でも作れちゃうよ。



「ねぇ、アイス。そこの、クーベルチュールチョコレートって書いてあるの、いくら?」
「700円ちょい。200グラムで。……板チョコの約2倍か」



高校生って嫌だな、と思った。
早く大人になりたい。
お小遣いだけで足りるわけない。
他にもたくさん買うものがあるんだもん。



「板チョコにするか」



私も餅ちゃんも反対しなかった。



次は、デコレーション用コーナーを見た。



「「「かわいい~!!!」」」



三人一緒に嬉しい悲鳴をあげた。
ビーズのように小さくてかわいい物に溢れている。



鉱石のようなフレーバーシュガーは、ホワイトチョコにふりかければクリスタル宮殿になりそうだ。
これは買い、だね!
隣にあるスプリンクルという砂糖でできているお菓子には、粒状のものからハートの形まで取り揃えてあり、色もパステルカラーだったり極彩色だったりと、種類はたくさんだ。



ここにあるデコアイテムは全て食べられるのだ。
ジェルネイルで見るようなキラキラの粒まで砂糖や金箔でできている。



「あれもこれもほしい!」
「折半しよう!」
「そうしよう!」



カゴにホイホイ入れていった。
光る粒であるアラザンと、星とハートのスプリンクル、キラキラパウダー、銀箔シュガー、カラーシュガー、これらの砂糖菓子のほかにも、ドライフルーツ、食用色素なども入れていった。



デコアイテムの良さは見た目だけじゃない。
食べたとき、食感のリズムを生んでくれたりもする。




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