青空くんと赤星くん





最後にイベントスペースの方を見に行った。
私たちは押し合い圧し合い進みながら、ショーケースの中にあるチョコレートを眺めた。
過密すぎる店内でも、そのチョコレートたちだけは優雅で品が良い。
この中は良い香りが充満しているんだろうな。



「やっぱさー、こことか百貨店とか行くとさー、買いたくなるよねー」



人の波にもまれながら、餅ちゃんが窮屈そうに言った。



「自分用にほしい。あれとか」



アイスが指さしたのは、……なんていうのか、未来人のお庭だろうか?



チョコレートでできた木の周りを旋回するように蝶々が飛んでいる、芸術的なお菓子だ。
本物に見えるけど、だんだん近づいていくと、飴細工だとわかった。



隣のブースには列ができていた。
パリにある有名な老舗店が日本へ上陸したそうだ。
このお店が二店舗目の開店で、コック帽子をかぶったパティシエが立っていた。
もしかして、ショコラティエかもしれない。



チョコレート職人には『ショコラティエ』という専門の呼び名があって、お菓子職人の『パティシエ』とは区別されている。
それほどチョコレートは奥が深い食材というわけだ。



『オススメNo.1!本命はこれで決まり!』と書かれた台座の上には、正方形のチョコレートが置かれていて、金箔をかぶって輝いていた。
対角線上に茶色と黄金色で分かれたその対比が美しい。
ただ、No.1にしては気品はあるけれどインパクトに欠ける、と思った。
味に自信があるということかな。



「見えない~」



平均より高めのスラリとした餅ちゃんでも見えないなら、アイスも見えないだろうな……あれ?
アイスがいない。



「餅ちゃん!アイスがいない!」
「え?」
「お~い!こっち!」



小さな手がぴょんぴょん上下している。
そっちについて行くと、そこもまたチョコレートの都だった。



指先で触りたくなるようなデコレーションに凝ったチョコや、思わず口の中へ入れて味を想像したくなるような不思議な形をしたチョコレート、箱がお洒落でそれ目当てで買いたくなるようなチョコレートなどなど。



商品のプレートを読むも、エレガントな味、スタイリッシュな味、などと書かれてある。
……これでは味の糸口がさっぱり見つけられない。
高級とかすっきりとかそういう感じかな?



お母さんと来ればよかった、と友達の前で口を滑らしそうになる。
きっと買ってくれるに違いないもん。
すると、「いかがですか~」と販売員のお姉さんがつまようじの先に刺さったピンク色のチョコレートを渡してくれた。



パクリ




チョコはゆっくりと溶けて、舌の上でもったりしている。
ゆっくり味わえ、ということだろうか。
上品な甘み。
その奥に、ほのかに桜の味がした。



今まで桜餅や桜餡は食べてきたけれど、どうもあの独特な風味が苦手で、桜のアイスや桜の花の塩漬けなどには手を出さなかった。
それがカカオとの組み合わせによって、格段に美味しく個性的な味に変わるんだな……!
桜は味覚よりも視覚で味わうべきだ、という偏見はこれにて捨てようと思った。



値段を見ると、Sサイズで2600円。
自分用に買いたかったけれど、今日買った材料をキャンセルしないと買えない値段だ。
それはできない。



「おいしいです。今度、母ときます」





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