青空くんと赤星くん
それぞれが自分用のチョコレートを買ってお店を出たあと、フードコートの机の上にそれを広げ、友チョコとして三等分した。
アイスはかわいいアンティーク缶に入ったチョコ詰めから、ガーリーなアルミホイルに包まれた真っ赤なハートのチョコをくれた。
甘酸っぱいイチゴソースが美味しい。
餅ちゃんは『おっぱいチョコ』という、女性の胸の形をしているチョコを堂々とレジで購入した。
たくさん配れるように大量に個包装されている、少し安っぽいやつだ。
「そういうエロいの、どんなやつが買うんだろって思ってたけど、餅みたいなのが買うんだ」
アイスが呆れたように言った。
「それって普通のチョコ味?」
私が訪ねると、餅ちゃんは頷いて一つくれた。
形に抵抗があるものの、一口含むと、なんてことないただのチョコ味。
でも、ふふっと笑える面白い味もする。
アイスも歯にチョコをつけて、「やわらかくない!」とウケている。
「味重視だとつまんないよねー。やっぱりバレンタインは盛り上がって食べられる方が楽しいし。これは渡辺くんにあげよ~」
「ひかれるぞ」
アイスがつっこむと、餅ちゃんは意味ありげに上目遣いをした。
「男なんてスケベなもんだよ~。こーゆーのが案外きいて、ホワイトデーまでには絶対に告ってくるの~」
「ほんとかよ。あたしは友達どまり認定されるに一票」
私もアイスに賛成だ。
ユニークな品ではあるけど、告白用には不向きかな。
「まだ付き合ってない子からもらったら、距離を置かれるかもよ?」
「わかってな~い。みてなさいよ~!絶対に告ってくるんだから!」
「そんな告白のされ方聞いたことないわ。クルミは何買ったの?」
「クーベルチュールチョコレートのハイカカオ。やっぱりほしくなって」
風味が逃げないように個包装されているそれを二人に配った。
「ああ、ほろ苦い。これで作ったら絶対に美味しいじゃん」
「にが~い。でも、後味はスッキリしてるね」
二人の言うとおり、カカオ80%とは思えないほど、そのままでも美味しい。
買ったものを片づけて椅子を引いたとき、「加茂校でしょ?その制服。俺ら年上だけど、いい?」と2人組から話しかけられた。
「いいってゆーのはぁ、それどーゆう意味?」
餅ちゃんが素早く反応した。
若干、声色が高くなっている。
「遊ぼって意味」
シルバーのネックレスをした男が笑顔を見せた。
「餅はいいけどぉ。二人はー?」
私はアイスを見た。
派手な髪型をしたいかにもチャラそうな二人を前にして、小柄のアイスは完全に思考停止して固まっているように見えた。
私が断らなきゃ。
「私たちは彼氏持ちなんで、すみません」
「いーじゃん。今は彼氏抜きで遊んでるんでしょ?」
シルバーネックレス男が答えると、隣の金髪男が「俺も彼女いるよ」と言って、リングのかかったネックレスを摘まんで私たちに見せた。
「それペアリングですか?」
「そう」
『こんなけしからん男と本当に遊ぶつもりなの?やめときなよ』とは、本人たちの前で口には出せない。
そのかわり餅ちゃんの手を握ろうとしたら、「ここでお別れにしよー。また明日ねー」と言って、自分から二人の間に入っていった。
残された私とアイスは目をぱちくりして、小さくなっていく三人の背中をしばらく見ていた。