青空くんと赤星くん
お母さんがガーゼを当てて、仰々しいほど包帯を巻いてくれた。
そのせいで、登校して早々に周りから注目されてしまった。
アイスが「おはよう」と言いかけて、「手どうした!?」ときいた。
「包丁を使ってたら爪先を切っちゃったの。少し肉も切れて血が出たんだけど、爪のおかげで大丈夫だった」
「猫の手は包丁の基本でしょーが。それでも料理部の部長?」
アイスが指先を丸めてグーをつくった。
猫の手ポーズだ。
「面目ないです」
「いたそーう。だいじょーぶ?」
餅ちゃんが両腕を広げたので、その胸に顔をうずめた。
「指の先がジンジンするの」
「よしよし」
女の子って柔らかい。
青先輩に抱きしめられて、初めてその柔らかさの違いに気がついた。
背中の硬さも頭の置く位置も全然違う。
青先輩……。
慰めごっこに乗じて、あやうく餅ちゃんの腕の中で泣きそうになった。
アイスと餅ちゃんが包帯に落書きをし始めた。
それを見ながら、「そういえば昨日、餅ちゃんはどうしてあの二人組から逃げてたの?」と私はきいた。
「あ!それあたしもききたかった。走らせやがってさ。おかげであまt」
アイスは口をつぐんだ。
たぶん続きは、「おかげで甘党王子様を見ちゃった」かな。
餅ちゃんはハンドクリームを塗りながら、「ああ、あれねー」と面倒くさそうに言った。
「あのあと家に誘われてさー。友達も呼んでいい?とか言うのー。それは怖いよね?だって何人も同時に相手したことないし」
アイスが目線をそらした。
私は周りを見渡して、どうか内容を聞かないで、と願った。
「断ったらさー、アソコのサイズ自慢してきたのー。これって下手な証拠じゃんね?だからアソコ蹴って逃げたんだー」
隣の席の中野くんがギョっとした目で餅ちゃんを見た。
それだけで指先の痛みがだいぶひいた。