青空くんと赤星くん
「勝負覚えてるな?」
「うん!」
日本史担当の先生が教室に入ってくると、前の席の中野さんが「起立!」と号令をかけた。
「礼!お願いします」
「お願いします」
クラスの皆がざわつきながら席に座った。
「テスト返却するぞ~。順番に取りにこ~い。あかぼし~」
赤星くんに続いて、岩井さんと私も席を立った。
先生は渋い顔をして、「あかぼしぃ。ふざけた解答はするな」と付け加えてから解答用紙を手渡した。
「いわい~。うしおだ~」
はーい、はいはい!
おおお。
84点!
80点台なら大満足だ。
私は小さい頃から90点台に興味がなかった。
100点にしか興味がない、というわけでもなくて、なぜか80点台が好きだった。
親から怒られるような低い点数でもなく、まだまだ伸びしろもある、そんな感じが好きなんだ。
その方が気楽に勉強できる。
「ふざけた解答ってなに書いたの?」
席に戻ってきいてみた。
赤星くんは私の解答用紙を取り上げて、自分のと交換した。
「わぁ!すごい!89点!」
「俺の勝ち」
「すごい~。負けた~」
サーと目を通すと、大きく×がついていた。
「え!?牛尾田くるみって書いたの?」
赤星くんは面白そうに、「日本史の解答はふざけてなんぼだろ」と言った。
し、信じられない……。
赤星くんは答えが源義経だってわかっていたのに、わざわざ『牛尾田くるみ』とふざけた解答をして3点も失点し、あげくのはてに先生に叱られている。
「頭大丈夫?」
「あ?俺より点数低いやつが言うな」
「せめて、牛若丸って書けばおまけしてもらえたかもしれないのに」
「それじゃつまんねぇだろ」
「つまんなくていいんだよ!私そんなふざけた人に5点の差で負けたんだ……」
「厳密に言うと8点差だ」
「居眠りばっかしてるのに」
「日本史って運動部のやつらにはお昼寝タイムだからな」
「そんなことないでしょう」
「そんなことあんだよ。体育とか数学と違って能動的になんなくていいからな。眠たくなんだよ」
授業はちゃんと聞かなくちゃ失礼でしょう、とは思うものの、日本史や現国の先生って眠たくなるような声質の持ち主が多いのはうちの学校だけかな?
基本的に文系の先生っておしゃべり好きというか、話が長い傾向にある。
授業内容にストーリ性があるせいかな?
「平安時代の問題で、クラスの女子の名前は珍回答すぎるよ」
「3点くらい落としたって、どうってことねぇよ」
「……あのさ。変なお願いしてもいい?」
「あ?」
「えっと、これ、ください」
私は赤星くんの解答用紙をもらった。
お世辞にも上手とはいえない字で、『牛尾田くるみ』と書いてある。
なんだか貴重な物のような気がしたからしっかり端を揃えて折り畳み、ファイルにしまった。
他人の解答用紙が宝物になるなんて、自分でも信じられないよ。
赤星くんもそうらしい。
珍しく不思議そうな顔をして、「んなウケるとは思わなかった」と言った。