青空くんと赤星くん





「指の包帯とれたのか」



5限目が始まるころに赤星くんは来て、私の絆創膏を5枚も重ねて膨らんでいる指を見て言った。



あれは医療用テープが無かったから仕方なくガーゼを絆創膏で固定しただけで、実はその絆創膏もベタベタに貼ってしまい見栄えが悪かったから、という理由で包帯を巻いて隠しただけだった。
重症に見せかけた軽傷だなんて恥ずかしくて左手を隠した。



「あれはお母さんが処置したから……その……」
「そういや牛母は心配症だったな」



私も血を見るのは苦手で、ついつい傷の状態をよく見もせずに痛みだけで判断して、お母さんに「絆創膏じゃなくてガーゼにして!」と頼んでしまった。
今朝も、絆創膏を5枚も重ねておいてまだ足りなかったかな、という気でいる。



「私も似たようなとこあるの。遺伝かな。心配症遺伝」
「さすが子牛」
「それ、お弁当箱?」
「そ。洗ってきた。美味かった。ごちそーさま」
「いえいえ。あ!どうだった?ビラ配りの効果あった?」
「あった」
「やっぱり!午前休んだのはそれが理由?」
「そ。でも、偽情報だった」
「え?」
「青先輩目当てで電話してきたヤツだった。また会えると思ったんだろーけど俺だったわけ。ざまーみろ」



なんて声をかけてあげたらいいのかわからない。
また頑張ろうねって?
もう頑張ってるよね。
諦めないでって?
赤星くんにとって諦めることは逃げること同義だよね。
そんな意志薄弱じゃねぇよってね。



「……今年のおみくじは大吉だから、必ず私がいれば犯人逮捕できるよ」
「そういや俺も大吉だったな。一緒に行ったやつらも全員大吉が出てすげぇ驚いたんだ。参拝客に気をつかってんだろーな」
「そんなぁ!」
「ま、現実は甘くねー。そんなすぐ見つかるわけねぇ」
「大丈夫?落ち込んでない?」
「人の心配すんなって」
「来週も手伝うからね。一緒に頑張ろうね」



ちょこちょこタイムを取り出すと、赤星くんは黙って手を差し出してくれた。
手伝っていいってことだ。



「で、子牛はどーだったわけ?」
「なにが?」
「青先輩と」
「ああ……。別れる、と思う」
「あ?どっちだよ」
「まだ伝えてないから。どうふるのか考えてるところ」
「簡単だろ。離婚届け出すわけじゃねーし」



恋人とは「付き合いましょう」「そうしましょう」という合意があって成り立つ関係だから、当然別れるときだって「別れましょう」「そうしましょう」という合意がないと関係は終わらないんじゃないのかな。



一方的に終わらせることはできるけど、どちらかが片思いのまま、という着地はベストじゃない。
気持ち良く別れるためには話し合う必要があると思う。
泣いている青先輩を見てしまった以上は、とくに。



「簡単には無理だよ……」
「ゆるしてやんねー、じゃあな、ですむだろ」
「そう単純じゃなくて。……青先輩はね、相手に恋してないから浮気じゃないって言うの。その、女友達っていうか、ただの……セフ、レ、だからって」



最後の方は声のボリュームを下げてみたけど、淫らな意味を薄めることはできない。
「そういうヤツいるよな」と赤星くんは笑った。
彼もそう思う人なのかな?
きいてみたいけど恥ずかしい。
こんな下ネタっぽい話題はやめておこう。



「笑い事じゃないもん」
「他人事だから笑える」
「もう!」




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