青空くんと赤星くん







――――――――――赤星くんだ。




赤星欣司(あかぼし きんじ)。
ツンツンに立てた髪の毛は尖った性格の表れか、185cmはありそうな背丈をもっと高く見せている。
色黒の肌に、ミドル級ボクサーのような体型でボクシング部っぽいが、実際は柔道部に所属しているらしい。
睨みをきかすような切れ長の目は、「喧嘩ならいつでも買うぞ、おら」と言っているようだ。
女子に限らず、男子や先輩まで怯えさせる、悪目立ちしている存在。



そんな雰囲気を出す人に話しかけるのは少し勇気がいる。
実際、このクラスになって9ヵ月は経ったけど、今まで話しかけたことも話しかけられたことも一度だってないのだ。



私は浜崎先生が他の子の椅子の調整を手伝っている隙をみて、鞄からお菓子箱を出した。



スノーボールクッキー。
小さな丸いフォルムをしたクッキーに粉砂糖をふりかけた、名のとおり雪玉のような、冬にぴったりのクッキーだ。



昨日の夜、コロリン、とした形になるように手の平の上でクルクルと丸める作業が楽しかったな。



粉砂糖をふった白い玉と、ストロベリーパウダーをふったピンクの玉の2色を作った。
透明の袋に入れ、口を黄色のワイヤーリボンでくくってある。



いつもお弁当を一緒に食べているアイスたちに配る予定だったけど……、今すぐコロコロと転がって箱の中から出たがっているみたい。



私は中野さんに「よろしくね」ってひとつ、あまりしゃべったことのない岩井さんにも「よろしくね」ってひとつ渡した。
二人とも喜んでくれた。
心の距離が少しだけ近づいたみたいで、嬉しい。
プチギフトはもらう側だけじゃなくて、あげる側も嬉しいもんだよね。



よし!
次は赤星くんだ!
引っ越しをしたら、ご近所さん全員に挨拶の品を持って行くのは礼儀だ。



彼は椅子の高さを調整している。
横から見ると、分厚い胸筋とアイスの二倍はありそうな二の腕がブレザーの上からでも見てとれる。
どんなパンチを繰り出すんだろうか。
いや、でも先生がいるし大丈夫だ。



だいたい、お菓子をあげたら殴られた、なんて展開はありえない。
そんな展開はお菓子い、なんちゃって。
あはは。
そんな感じで軽くいけばいいよね。



「あ、赤星くん。そ、粗品ではありますが、どうぞお召し上がりください!」
「いらねぇ」



一瞬、スノーボールクッキーが本物の雪玉となって投げ返された気がした。
雪合戦じゃないんだぞ!
ふんだ……。
今後とも末永くお付き合いのほどよろしくお願いいたしませんっよーだ!





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