青空くんと赤星くん
チョコレートアソート
はぁー。
明日はバレンタインデーかぁ……。
義理チョコを青先輩に渡そうと思う。
彼の泣き顔を見たときは胸が痛んだけど、もう自分の気持ちに気づいてしまった以上、無視することはできない。
青先輩との恋は、チョコレートのように一度固めてもまた溶かして別の型へ入れれば形が変わる、なんていう変形性はない。
この恋は不可逆的なもので、彼がどんなに泣いたって配送するのは義理チョコ便だ。
電車の中で青先輩にメールをうった。
『明日、会えますか?大事な話があります』
明日この恋に終止符を打つんだ。
ポン
『お誘いは嬉しいけど、大事な話って別れ話の常套句だよね』
文末についている絵文字は、黄色の球体が汗をたらしていた。
私も同じような気分だよ。
ふられる人もふる人も両方つらい。
餅ちゃんに限らず、世のカップルが自然消滅を好んで使う理由がわかった。
『メールで言えるようなことではないので、明日言います』
ポン
『俺からくるみちゃん家に行こうか?』
『私が行きます。午後からでいいですか?』
さすがにふる相手を家に呼ぶのは気がひけた。
ポン
『いいよ。デート楽しみにしてる』
デート楽しみにしてる、と言われるとニュアンスが違うというか、ハッピーエンドになると思って観ていた恋愛映画がバッドエンドだったみたいな、肩透かしにあわせてしまうだろうな。
気が重いけれど、仕方ない。
せっかく惹かれあっていい恋をしたんだ。
ゼロに戻るんじゃなくて、友達になれるように頑張ってみよう。
電車がガタンッと揺れて吊革に手をのばしたとき、真っ赤な車内広告が目に入った。
『2/14 Happy Valentine‘s Day』
赤星くんにもあげようかな?
義理チョコでも本命チョコでもない、友チョコとして。
あ、連絡先を知らないから渡せないか。
でも、土日は病院にお見舞いに行ってると言ってたな。
青先輩の家から帰るときに運よく会えたりするかもしれない。
いや、そんな都合よく会えないか。
運命の赤い糸で結ばれてるわけじゃないしね。