青空くんと赤星くん





夏場じゃなくても、ノロウイルスが流行る冬季だって気をつけて調理しないといけない。
料理部で必ず行う手順を真似て、手洗いうがい、アルコール消毒、マスクとエプロンの着用をした。



そして、食用のビニール手袋もはめた。
素手で触ると雑菌がついてしまうかもしれないからだ。
最後のラッピングまで素手で触らずに手袋をすれば、とても清潔な状態でプレゼントできる。




下準備として、使う材料をキッチン台に置いていった。



小鍋、ボール、計量スプーン、デジタル計量器、計量カップ、泡だて器、粉ふるい用の茶こし、ゴムヘラ、バット、クーベルチュールチョコレート、ホワイトチョコレート、生クリーム、デコグッズ、甘くしたいから食塩不使用のバター、砂糖は……。



砂糖はグラニュー糖にしよう。
色んな食材と合わせるから、クセのある甘さがない方がいい。
グラニュー糖がお菓子によく使われるのは、甘さがスッキリしていて、かつ溶けやすいからだ。
振りかける用の粉糖も出しておこう。



それから、あとは。



オープンペーパーでソフトクリームのコーンの形をしたコルネを作った。
アイシングのときに使うかもしれないからね。



アイシングクッキーを調理実習で作ったことがある。
クッキーの上にお絵かきをするあれだ。
患部を冷やす治療の方じゃないよ。
綴りは同じIcingだけど、お菓子作りのアイシングには『砂糖の衣』という名前がある。
その名のとおり粉砂糖や卵白を練って作ったもので、クッキーに何でも描ける。



たしか、味は甘いだけだった。
でも、自分の爪やスマホケースをデコるようで楽しかったな。
自分の好きなようにメッセージが描けるアイシングは、誰かに気持ちを伝えたいときにはピッタリだ。



あとは、アールグレイ、ラム酒、ドライフルーツ、ナッツ、マシュマロ、しょうが、チョコペン、ココアパウダー。



最後は型だ。
キッチン台の引き出しから透明なボックスを出した。
大きなステンレス製の丸型の中に、色んな型がごちゃごちゃと入っている。
これでは型が変形するかもしれない。
形に合わせて丁寧に整理整頓できたら、もっと隙間が空くのはわかってるんだけど。



ガラガラガラ、と台の上に型を並べる。
主役はお菓子か、それとも気持ちか……。
丸い型を手に取って、しばらく眺めた。



この形を頭の中でハートや星に変化させる。
生地に押しあてて型を取るときや、型に材料を流し込むときに、プレゼントする相手のことを考える。
型で気持ちを抜き取るようなものだからだ。



ハート型は青先輩には使えない。
この形は特別な気持ちに限定するべきで、今の気持ちに相応しくない。
私が彼に伝えたいのは……。



青先輩からメールが届くと、それだけで嬉しかった。
ほとんど毎日メールのやり取りをして、一緒に下校するときはコンビニスイーツを買い食いし、家に帰っても電話したり……、それだけで一日の疲れが抜けていった。



デートに行けば、かわいいかわいいって褒めてくれた。
くるみちゃんはかわいい、大好きだよ、頑張ってるね。
誰かに言うほどでもない些細な話も聞いてくれて、笑ってくれる。
忙しくてときどきしんどくなる学校生活を優しい心で受けとめてくれた。
癒してくれた。
甘やかしてくれた。
そして、恋の刺激もくれた。



私が彼に伝えたいのは、今までありがとう。
恋に一歩、一歩、と踏み出す青先輩との毎日は楽しかったよ……、かな。
そんな想いをプレゼントするのだ。



……これにしよう。
花びらが5枚ついた型を選んだ。
桜の花だ。



赤星くんのはどんな型にしようかな?
姫からも凶暴なサラリーマンからも助けてくれた彼には、感謝を表現できるような形がいいな。



うーん、あれでもないしぃ、これでもないなぁ。
雪だるまはクリスマスっぽいしぃ、……あれれ?
うんち型がある!



うんち型なんてどうして買ってしまったんだろう?
一生使わなさそうだから奥の方にしまっておこう。



ガチャガチャガチャ



星型もいいけど、型からチョコを外すときに角が欠けないか心配だなぁ。
どうしようか。



ガチャガチャガチャ



これだ!
キリン型やネコ型に囲まれた、ウシ型。
牛丼とか牛スジとか呼んでくる赤星くんなら笑ってくれるよね。
ただ、一頭しかないからイヌやウサギにも助太刀してもらおう。



これで準備は整った。
ようし、美味しいの作るぞ!




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