青空くんと赤星くん





ほとんどの子は新しく隣になった子とおしゃべりが止まらないみたい。
そんな楽しそうなムードを、浜崎先生が指揮者のように手を振って静かにさせた。



「このクラスになることは二度とありません。最高の3学期にしましょう!」



「「はい!」」と中野夫婦が声を揃えて返事をし、男子たちが「だから見せつけんなって」「3学期もイチャつくつもりかよ」と野次を飛ばした。



「先生はこういう愛のあるいじりができる3組のみんなが大好きです」



あ、ちょっとヤバイ。
私はこういうのですぐに泣く方だ。



「愛があるのはこいつら夫婦だけでーす」とおちょくる男子に、中野くんは「そうひがむな。結婚式には3組みんな招待してやるから」と返して、女子たちがキャアキャアと声を上げた。



「あ、結婚式で思い出しましたが、民法改正によって2022年4月から、男女ともに結婚できる年齢が18歳に統一されたのは知っていますか?」



「僕たちまだできないじゃん」と中野くんが言うと、「気が早いってば、もう」と文句を言う中野さんは、でもちょっと嬉しそうで、私もなんだか嬉しくなった。



「今回の席替えで、仲良くなった隣席の子と離れてしまって寂しく思う子もいるでしょう。
だけどね、それでも3学期が終わるころにまた同じ気持ちになれるといいな、と先生は思います。
もう2年生でいるのも残り2か月ちょっとしかありません。
体育祭も文化祭も終えて、残すクラス行事は終業式だけです。
だからこそ、もう3学期、だがまだ3学期と思って、思い出を増やしてほしいです。
2年3組でよかったな、と思い出したとき、クラス全員の子の顔が瞬間的に浮かぶようにしたいと思うのは、先生だけですかー?」



わかりやすい煽りを受けつつも「いいえ~」と数人が答えたり、首を振ったりした。



私は「私もです!」とささやいた。
対角線上に座っているアイスの横顔を見ると、完全にしらけていて、あくびをかましている。



「よかった。先生もみんなの思い出に一緒に残るように、過ごしていこうと思います。
良き思い出は辛いときに助けてくれます。
良き思い出がずっと死ぬまで心の中で輝いているものだから、心が暗くなるとより光ります。
きっとこのクラスなら、大きく光る思い出がまだ生まれるはずです。
だから、どうかこの席替えを楽しんでください」



我慢できなかった。
ハンカチでほんのちょっぴり零れてきた涙を受け止める。
一番後ろの隅っこの席でよかった。



「換気するために休み時間は必ず窓を開けること。これも2学期同様、窓側に座る子たちの仕事なので、しっかりやってくださいね」



浜崎先生がそう言い終えると、ちょうど終業のチャイムが鳴った。




「寒いっ」



窓を開けたら冷たい風が吹きつけて、さっき感動して潤んだ瞳が一瞬で乾いた。
そのくらい冬の空気って乾燥している。
窓が閉まっていれば我慢できる気温でも、風が吹くと体感温度が下がって、教室にいても震えるほどだ。



だけど今は不思議とテンションは下がらなかった。
雨上がりの空気みたいに心の中がすっきりとしていて、次こそは赤星くんに、『よろしくね』って気持ちを添えたお菓子を受け取ってもらえるように、ちょっとずつ仲良くなっていきたいな。



『もう3学期、だがまだ3学期』だもんね。







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