青空くんと赤星くん





自分の部屋に戻って服を着替えた。
チェック柄のトップスをプリーツスカートにインしてコートを羽織り、……んん?
ウエストのボタンが前よりもきつくなってる……。



おしゃれは我慢とか言うし、着替え直す時間ももったいない。
これでいいや。
脂肪がついた原因はお菓子作りだってわかってるけど、運動不足でもあるせいだ。



甘いものを食べると太る。
太るから運動する。
運動すると痩せるから甘いものが食べられる。
食べたから太る。
太ったから運動する。
痩せたから甘いものを食べる。
甘党はこの闇深い論理と生涯にわたって闘わなければならないのだ。



またキッチンへ戻ると、お父さんが冷蔵庫からあの箱を取り出していた。



「ストップ!それお父さんのじゃない!」
「てっきり父さんのかと」



お母さんは私に彼氏がいることをお父さんに黙っているようだ。
危ない危ない。
私の想いが誤送されるところだった。



「毎年この日はチョコケーキでしょ?後からお母さんが作るからね」
「それ友だち用か?」
「……今から渡しに出かけてくるね」
「車出してやるよ」



まだ寝間着姿のままのお父さんが言った(どうでもいいけど、うちのお父さんは私服になると途端に文系の教員に見える)。



「歩いてくから大丈夫。ありがとう」



ウエストをなんとかしなきゃね。
揺らさないように傾けないように箱を保冷バッグの中に置き、保冷剤も一緒に入れた。



チョコレートのような温度変化に弱いものは、なるべく生ものを扱うように温度や時間を考慮したい。
お菓子だって生き物だから、新鮮なうちに食べてほしいよ。
けれど、時間が経てば経つほど酸化した味になったり食感が損なわれたりする。
特に手作りのような保存料が入っていないものは傷みやすい。



床と箱が水平になるように運ばなきゃね。
逆さ厳禁!




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