青空くんと赤星くん
赤い糸
こんなにも晴れ晴れとした気分なのに空模様は最悪。
小雨が降っている。
降りはじめの雨は不純物が多いから体に悪いというのは、うちの学校の初代校長を見れば明らかだ。
学校に設置してある校長の銅像は、錆びついて色はまだらで艶もなく、ハゲに見えてしまっている。
それを見るたびに、学校のロッカーに折り畳み傘がちゃんとあるかチェックしてしまうのだ。
道路に水たまりができているということは、もう30分以上は降り続けているのかな。
それなら水みたいなもんだよね。
コートのフードを被って、この前一緒に歩いた駅から病院までのルートを歩いた。
心配なのは雨よりも気温だ。
チョコレート菓子の裏には、『28℃以下の涼しい場所で保存』とよく書いてあるけど、これはチョコレートの溶解温度が28度だからで、保存に適した温度は15~22度といわれている。
ただ、生クリームを使っている場合はもっと溶けやすくなるから、生チョコは冷蔵庫のような10度以下の環境で冷やしておきたい。
保冷剤の冷却もだんだんと弱まってきているはず。
自分の手が冷えているからわかりにくいけれど、外の気温は10度を超えている気がした。
「タイムリミットかな……」
赤星くんには会えなかった。
お見舞いのためにここまで通っているだけだから行動範囲は狭いはずなんだけど、時間が合わなかったかな。
一応持っていって、もし会えたら渡そうってだけだった。
会えなかったら、家族で分けちゃえばいいだけ。
Uターンしようか迷ったとき、ちょうど横断歩道の信号が青に変わった。
雨も強まってきたし、帰ろう。
なんとなく会えるかも、なんて錯覚をおこしたのは、芸術鑑賞会で観た演劇のせいかもしれない。
運命の赤い糸の伝説では、縁結びの神様が運命の相手と自分を赤い縄で繋げてくれて、必ず引き合わせるようにプログラムしていた。
試しに片方の足首を回してみる。
……やっぱり縄は感じ取れない。
羅針盤のように方角を示してくれて、運命の人がいるところまでリードしてくれる便利機能はないらしい。
これは赤い縄が第六感でしか見ることのできない存在、正体不明の現象なんじゃなくて、そもそも存在しないから見れない、感じないだけだ。
……って、どうして赤星くんを運命の相手だと思ってるの!?
さっき青先輩が『赤星が好きなの?』なんて変な質問をしたから……?
それとも、ピンチのときには必ず現れる不思議なご縁のせい……?
頭を振って、前髪に垂れてくる水滴を払った。
信号のライトが反射して緑色に光っている水たまりを避けながら、今危機的状況に陥ったら会えたりするのかな?なんて思った。