青空くんと赤星くん
気がつくと地面ではなく、脚の筋肉は弛緩したまま電車の椅子に深々と沈んでいた。
「次、牛鬼の降りる駅だぞ」
「ん?……はい?」
「しっかりしてくれよ」
「は、はい」
車内を見渡すとほとんど人は乗ってなくて、窓の外から見慣れた景色が流れていた。
ここまで無言で歩いてきた記憶がうっすらとよみがえる。
隣の赤星くんをチラっと見ると、待ってましたと言わんばかりに目を合わせてきた。
「もったいぶんなよ。その気あるくせに」
「なっ、なんでそうなるのっ!」
「わかりやす。顔真っ赤」
「暖房のせいだよ。あの、告白ありがとう。でも、ちょっと、考えさせてほしいの」
「やだね」
でも、その『やだね』はいつも『いいよ』の意味だからな。
タイミングよく羽根駅に到着したので、「また月曜日ね」と言って別れようとしたら、「家まで送ってく」と言われた。
「まだ夕方なのに?明るいし大丈夫だよ」
「うっせーな」
「さっき、ナッツの『気をつけて帰ってね』を意味ないって片づけたくせに」
「うっせーな……」
それでも赤星くんが今こうして私を送ってくれるのは、……そういうことなんだよね?
電車から降りるとき、今朝も見かけた『Happy Valentine‘s Day』の広告が目にとまった。
Thanks.You too!