まじないの召喚師2 ー鬼の子と五大名家ー
「入れ替わりの鍵は、仮面か?」
先輩の質問に、私の口が動く。
「半分正解。視界に膜を挟むことによる意識の切り替えであり、眼鏡でも、前髪でも、なんでもいいんだ。この子が本気で隠れたいと願うなら、おそらくそれらも必要ないね」
「憑依……いや、二重人格ってことか」
「そう思ってもらって構わない。この子は今、テレビを見るようにこちらを認識しているよ」
「生まれ変わりは神界の記憶がないと言われていたが、間違いだったか」
生まれ変わりは、神界での記憶をなくしている。
しかし神の力はそのまま持っている。
以前、先輩の説明にあったことだ。
「さて。他の神々の事情はわからないが、私達が出てこられるようになったのは、つい最近だ。月海自身にも、私達の記憶が引き継がれている事もない。……これは私の勘だが、コノハナサクヤヒメに神界の記憶はなさそうだ」
「………月海が神力を使えないのは、お前らが人格として在るせいか? やっぱりお前、力だけ置いて引っ込んでろよ」
「酷いよ先輩。私、こんなに尽くしているのに」
私は、先程から飛んできている攻撃を、触れる前に重力で潰していた。
我々の通った後には、焦げ跡や鉄の破片やらが轍のように残っている。
「戻って、式神を喚んでもらう。高位の式神に喧嘩売る奴はいねぇだろ」
「オモイカネかぁ。私あの人苦手だなぁ」
「ほぅ。そりゃいいこと聞いた。あいつにもお前の説得を手伝ってもらおう」
「うげぇ、勘弁。………私達の転生体のくせに、なんでオモイカネなんかと仲良くなってんだろう」
「やっぱ、転生って言っても、おまえと月海は別人なんだな」
「そうだよ。だから、二重……三重人格と思ってもらって構わないんだ」
「三重………」
「月海と私とスサノオだねっ」
「三貴神の二柱が一人に転生って、とんでもないな」
私の気持ちを先輩が代弁してくれた。
私の顔は苦笑している。
「とんでもないんです。だからもうちょっと優しくして」
先輩にしなだれかかり、腕を絡ませる。
「転生先は選べるのか?」
「選べたら、ふたりで一人にはなっていないかな」
「月海は、生まれ変わりの中でも特別な存在ってことか」
「少なくとも、基本からは外れているね」
天原咲耶がコノハナサクヤヒメの生まれ変わりというように、一人一柱だから。
「神の力は、使っていなくとも肉体に影響を及ぼす。本来、人間の手に余るものだ。相性もあるが、なるべく反動の少ない肉体が欲しいところだよねぇ」
「影響……反動とは、なんだ?」
先輩の質問に、私は淡々と答えた。
「人間でも、大きな術を行使する際、命を削るだろう。同じことだ」