まじないの召喚師2 ー鬼の子と五大名家ー
飲食物を扱う区画からはだいぶ離れた。
目の前には、先頭の見えない大行列。
「何に並んでいるのでしょうか」
ちょうど近くにいた最後尾看板の持ち主に、先輩が声をかける。
「すみません、これは、何の列ですか?」
ひさびさの、うさんく爽やか先輩が降臨。
「お化け屋敷ですよ。死霊術師が使役する死霊が放ってあるので、本格的とみなさんにご好評いただけてます」
妖魔退治のプロを育成する学校で、お化け屋敷っていいのか?
いいんだろうなぁ、人気あるようだし。
「お二人も並ばれますか?」
「んー、そうだな………」
「せっかくですし、並びましょうよ。見てみたいです」
「んじゃ、並ぶか」
「では、注意事項を。中にいるのは使役された死霊ですので、間違えても滅さないでくださいね。営業出来なくなってしまいますから」
「わかりました」
「それでは、当方のお化け屋敷をお楽しみください」
最後尾看板の持ち主は、私達の後から続々並ぶ人たちの最後尾についた。
「注意事項って……」
「おおかた、お前の想像通りだと思うぞ」
「………やっぱり?」
死霊が私達を殺意を持って襲ってくるが、成仏させないでねということだ。
「まあまあ。ツクヨミノミコトがいるんだ。心配はいらないだろ」
「そこらの雑魚に負ける神ではないわ」
小声の先輩に、ツクヨミノミコトが小声で返す。
「あくまで、襲ってくる奴を払うだけだからな。祓うなよ」
「あら? 私、信用ない?」
ツクヨミノミコトが操作権を奪い、先輩の腕を抱き控えめな胸を押しつける。
人の身体で!
「そういうの、やめてくれ」
「なぁに? 恥ずかしがっちゃってぇ」
先輩の首に飛びつくように抱きつくが、先輩は後方によろけながらも抱きしめてくれた。
人の身体でっ!
もうっ、恥ずかしい………。
瞬間、先程まで私の足があったところから炎が噴き上がった。
私たちを襲う寸前だった黒仮面が、それを踏みつけ火だるまになる。
「キャーッ!」
周囲の生徒が悲鳴をあげ、この場は騒然となった。
「設置型の術だねぇ。ちょうど人がいてよかった」
「よかねぇよ」
この学校なんなの。
思ってたのと違う……。
「この黒仮面の人に身代わりになってもらったろ」
「この人の運がよくなかっただけですよぉ」
ただの運なら仕方ないけど、ツクヨミノミコトが操作した運だからなぁ。
先輩も同じ事を思ったようだ。
「………助けてやれ」
「……先輩が言うなら」
私が指を鳴らすと、火だるまの人は水の球体に包まれ、どこかへ飛んで行った。
「救護テントがありましたから、そこに送りましょう」
「ああ」
火柱のおさまったそこには、破れたお札が残されていた。
妖魔を相手取る術を学ぶ学校だと思っていたけど、実は暗殺を教える学校なんじゃないかと疑う。
全員が全員、敵対してくるわけじゃないけど。
巻き込まれ事故も起こっているし、容赦ないなぁ。
身体の操作権を返されたけど、抱きついたり胸を押し付けたりして、どんな顔して先輩を見ていいのかわからない。
気まずいまま列が過ぎていくのを待ち、ついに私達の番がきた。