まじないの召喚師2 ー鬼の子と五大名家ー
「我が術を斬り、かつそこな息子達にぶつけるとは、素晴らしい」
手放しの賞賛。
先輩が火宮桜陰である時、決して贈られることはなかったもの。
それを今、与えられている。
運を操作するツクヨミノミコトの術の影響が全くなかったとは言わないが、斬ったのは先輩の実力だ。
誇っていいことだが、先輩の表情は浮かないまま。
「黒ということは、正式所属はしていないのだろう。うちに来ないか? お主ほどの実力者なら大歓迎だ。そして隣の、ツクヨミノミコトの生まれ変わりとお見受けする」
恭しく礼をする火宮当主。
先輩と私の目が据わったのは同時だった。
「一緒に歓迎しよう。我が火宮家に」
ふざけるな。
そんな都合のいい話があってたまるか。
「要らないって言ったくせに……」
先輩も同意見のようだ。
「今、何と?」
聞き返す火宮当主を仮面の下から睨みつける。
「聞こえなかったか? 先に要らないと言ったのはそっちだ。と言ったんだ」
「勘違いではないかね? 我がお主のような有能な者を不要などと言うはずがない。いくら無能のふりをしていたところで我の目は誤魔化せんぞ。お主らには仮面があるからわからないのだ」
仮面があるからわからないのは貴様だろう。
「場所を変えて会おう。きっと考えが変わる…」
「これ以上話すことはない。行くぞ」
「はーい」
出口へ向かう先輩の後を追う。
火宮夫妻は追いかけてこなかった。
教室を出る時、一般の生徒とすれ違い、教室の惨状を見た生徒は悲鳴をあげた。
それに集まる野次馬。
私達は、人の波に逆らって歩く。
私達を尾行していた火宮当主の式神は野次馬生徒にぶつかり、踏み潰されて破れ、使いものにならなくなったのを背中で感じた。
当面の危機は去り、身体の操作権が返される。
「先輩、親の情に流されて、あっさり許してしまうかと思いました」
「………ははっ、俺様はそんな安い男じゃないぜ」
強がってはいるが、悲しそうな声。
先輩はふと、出店群に目を止める。
「家で待つ子どもたちにお菓子でも買って帰ろう。ツクヨミノミコト、頼めるか?」
「えぇーっ、どーしょーかなー?」
なぜいつも先輩を煽るようなことを。
「ツクヨミちゃんって呼んでくれたら、考えてあげないこともないかもー」
ああ、それは呼びやすくなっていいね。
しかし、先輩に腕を絡ませて、ぺたんこな胸を押し付ける必要はないでしょう!
人の身体で!
先輩は興味なさそうに視線を出店に固定したまま言う。
「ツクヨミ、頼む」
「あいあいさー。美味しくて可愛くて安全なお菓子たちを見繕うよ」
この時買ったクッキーは、子どもたちにたいへん好評だった。
後に、五家に誘われながら了承しない黒がいたと、少しばかり噂になったらしい。